過去ログ - あなたの物語を。トエル 『氷菓』
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73: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:16:45.54 ID:fiJYedV+0
「いえ、ですが」
千反田が俺と母親を交互に眺める。
「俺のことを気にしているなら大丈夫だ。
74: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:17:43.24 ID:fiJYedV+0
なぜ千反田が笑ったのか皆目検討がつかない俺は、
頬を撫でたりしつつ、顔に何かがついてないかを確かめてみる。
「折木くん。頭よ頭」
75: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:18:39.38 ID:fiJYedV+0
千反田の母親が臙脂色の盆を手に戻ってきた。
盆には茶を淹れた湯呑みと茶菓子、それに約束通り手鏡と客用らしき櫛が載せられている。
まず手鏡と櫛を手に取り、やたらめったらにうねり、立ち上がっている髪の毛の始末に取り掛かった。
76: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:19:23.40 ID:fiJYedV+0
今朝方ぶりの格闘を終え、どうにか及第点までもっていくことができたと自らに言い聞かせる。
礼を述べ、千反田の母親に手鏡と櫛を返して茶を啜る。
千反田の母親は、ごめんなさいと手を合わせ、一口サイズのモナカを頬張り始めた。
77: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:20:17.63 ID:fiJYedV+0
千反田の母親というからには、お家柄、もっと厳粛な人物を想像していたからだ。
俺が娘と同い年の子供だというのも態度の軟化に多少なりとも寄与しているといえなくはないが、
しかしこの人の根底には千反田とは毛色を異にする人懐っこさがあり、そして何よりも家柄というものを意識したことのない者、
78: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:20:56.20 ID:fiJYedV+0
「ひとつ聞いてもいいかな?」
千反田の母親が茶を啜り、首を傾げて俺に尋ねる。
「そんなにしゃちほこばらなくてもいいのよ。別に取って食べようとしているわけじゃないの。
79: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:21:59.13 ID:fiJYedV+0
予期せぬ願い出に、俺が少なからず戸惑わなかったといえば嘘になる。
問いかけ自体はごくありふれたものだった。子を育てる親ならば、誰しもが子の友人にこのように尋ね、その答えを聞いてみたいのではないだろうか。
では、どうしてそこまで理解が及びながら、俺はその質問に答えあぐねてしまっているのか。
80: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:22:37.76 ID:fiJYedV+0
色々と感じるところはあったけれど、今だからこそ
痛烈に思う千反田えるのことを素直に伝えることにした。
「千反田は高校2年生の女の子です。
81: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:23:21.33 ID:fiJYedV+0
「折木くん」千反田の母親が人差し指を立てる。
「余計なお世話かもしれないけど、ひとつ忠告があります」
声のトーンが落ち、生真面目な表情で語るその言葉に思わず聞き入る。
82: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:24:41.01 ID:fiJYedV+0
「普通っていう言葉、私はとても難しい言葉だと思うの。
なぜなら、それは発話者によって、意味合いが大きく異なってしまう。
折木くんは自分たちを普通と称した。
83: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:25:35.81 ID:fiJYedV+0
「そんなこと」
「千反田の家のこと、周りの人々からのプレッシャー、あの子にはつらいこともあったかもしれない。
でも、責任を抱えていたからこそ今のあの子がある。あの子とそれらの責任は不可分なの。
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