過去ログ - 市原仁奈「はじめてのおしょくじ」
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1: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 22:40:31.51 ID:1vmwn4+80
ウチは親父が定食屋を営んでいて、息子の俺も時々手伝いをさせられる。
その時々というのは親父に見つかって逃げ切れなかった時という意味なので、つまり俺は親父の手伝う気はまったくない。
だからあの日、バイクで仲間とひとっ走りして帰った日の夜も、裏口から親父に見つからないようにこっそり部屋に戻る予定だった。
だったのだが。
店兼家の前まで帰ってきた時に、俺は見てしまった。
「……うさぎ?」
店の引き戸の前で、人間の子供ぐらいでかいうさぎが店の方を向いて二本足で佇んでいるところを。
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2: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 22:42:19.97 ID:1vmwn4+80
やれやれ、俺は疲れているみたいだ。
今日はもう早く寝た方がいいな。
悪い、親父。今日も店は手伝えそうにないわ。
3: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 22:48:14.28 ID:1vmwn4+80
俺は物音を立てないようにでかうさぎの背後に回った。
そして肩(うさぎに肩ってあるのか?)を掴む。
「おい」
4: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 22:50:32.41 ID:1vmwn4+80
なんだ、うさぎじゃなかったのか。
いやいや、わかってたさ。
人間の子供ぐらい大きい二足歩行するうさぎなんているわけないだろう。
5: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 22:53:02.13 ID:1vmwn4+80
うさぎ少女はこちらを見ながら、びくびくと震えている。
歳上の男子高校生にいきなり声をかけられたんだ、当然だろう。
というか、このまま泣き出されでもしたらまずい。
6: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 22:54:52.47 ID:1vmwn4+80
さて、どうしたものか。
こうしているうちに親が迎えにくればいいけれど、一向に誰も来ない。
仕方ない。親父に言って、店の中で待たせるか、と考えたところで。
7: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 22:57:36.01 ID:1vmwn4+80
殴られた、親父に。
「こんな小さい子に手を出しやがって!」
「出してねえよ!」
8: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 23:05:25.46 ID:1vmwn4+80
殴られた、何も言ってないのに。
「考えてることが顔に出てやがんだよ、お前は」
「親父に言われたくねえよ。っていうか子供に暴力シーン見せんな。怯えるだろうが」
9: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 23:07:36.78 ID:1vmwn4+80
「とりあえず、何か飯作って作ってやってくれ。腹減ってるみてえだ」
「おう」
「あ、あと俺の分も。夕飯食ってなかった」
10: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 23:10:45.70 ID:1vmwn4+80
ギャーギャーと、低レベルな争いを始めた俺達を止めたのは少女の一声だった。
「あ、あの、お金、あり、あります」
ぴたっと俺達は喧嘩を止め、親父が優しげな声(どう聞いても全然優しげじゃないけど、親父なりに頑張ったんだ。諦めてくれ)で少女に必要ないと言い聞かせる。
11: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 23:14:04.55 ID:1vmwn4+80
あと、初めてのおつかいを見てる気分って、こんななのかもしれない。
変な意味ではなく、見ていて和む。
横では親父の顔も微笑ましいものを見る綻んだものになっている。キモい。
12: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 23:15:58.80 ID:1vmwn4+80
「はい、お待ち」
親父が目の前にハンバーグ定食を置く。
ウチの客は基本的に仕事帰りのオッサンばかりで、子供はあまりこない。
13: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 23:18:20.17 ID:1vmwn4+80
「おいしそう……」
しかし、食い入るようにハンバーグを見る少女は一向にハンバーグを食べようとしない。
「箸ならそこにあるぞ。それともフォークとナイフの方がいいか?」
14: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 23:20:20.12 ID:1vmwn4+80
どうやらこの健気な少女は、俺の分の料理がくるのを待っててくれるつもりらしい。
とはいえ、仮にも今は営業中で客の前だ。
今俺が食べ始めるのは躊躇われるし、さっき親父に頼んだ夕食もこの子が帰ったあとのつもりだった。
15: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 23:21:09.77 ID:1vmwn4+80
食べ始めてからのうさぎ少女は速かった。
もぐもぐと、見ていて面白くなるくらいの食べっぷりでハンバーグを口に運んでいく。
ずいぶんとお腹が空いていたらしい。
16: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 23:23:06.08 ID:1vmwn4+80
今日の夕食が美味しかった理由について、やはり客に出す料理と普段俺に出す料理は違う肉使ってんのかな?などと思考を巡らせること数分。
いつの間にか少女の手が止まっていた。
嫌いな物でもあったのか?と思ったがそうではなく、少女は目を閉じてゆらゆらと頭を揺らしている。
17: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 23:24:44.54 ID:1vmwn4+80
それはさっき少女が取り出していたうさぎの財布だった。
どうやら財布をしまった際に、財布を開けた状態でしまっていたらしく、今落とした拍子に中身が少しこぼれてしまった。
さて、うさぎ財布にはいったい何が入っているのだろうか。
18: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 23:27:03.12 ID:1vmwn4+80
「俺の財布より入ってる!」とか「全然初めてのおつかいじゃない!」とか細かい点も気になるけど、それ以上に。
レシートがすべてコンビニのもので、しかもコンビニ弁当に関するものが多いことが、俺と親父の気をひいた。
定食屋を営む親父はどう思うか知らないが、コンビニ弁当も今は栄養についてけっこう考えられていて、一概に否定するものではないらしい。下手に料理下手な人が作るよりも安心、なんて話も聞く。
19: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 23:28:07.21 ID:1vmwn4+80
『いっしょが、いいです……』
さっきの言葉は、一人で食事をするのが不安だったからだと俺は思った。
でも、違ったんだ。
20: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 23:29:34.95 ID:1vmwn4+80
店の前で佇むうさぎの背中を思い出す。
小学生の女の子が、夜に初めて一人で定食屋に入るには、はたしてどれだけの勇気が求められるのだろう。
耐えきれない寂しさと未知への恐怖に板挟みになったうさぎ少女は、はたしてどれだけの時間を店の前で過ごしたのだろう。
21: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2017/01/10(火) 23:57:41.72 ID:1vmwn4+80
「おい」
親父は一枚の紙を手渡してきた。
それはここ周辺の地図。
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