過去ログ - 2月の昼下がりに橘ありすと話すことについて
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8: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/02/07(火) 19:38:09.94 ID:0cqd1nr10
 大抵の場合、僕は眠りから覚める時、さざ波のような柔らかな浮上感を覚える。

 壁に掛けられた時計を見遣ると、三時間ほど眠りこけていたらしい。寝覚めの感覚は、決して悪いものではなかった。
 人の気配を感じて周囲を見回すと、革張りのソファに彼女が腰かけているのが見えた。どうやらペーパーバッグを読み耽っているらしい。
 どうしてまたこんな日に事務所にいるのだろう。こんなに静かで、バッハのシャコンヌなんかがうってつけの日に。

 「ありす」

 驚かさないように、静かに声をかけた。

 十七の彼女は、座ったまま僕のことを一瞥し、視線をペーパーバッグに戻す。
 僕は立ち上がって頚椎の関節を二度ほど捻り、彼女の方に歩み寄った。
 土曜の昼下がりだというのに彼女は、ストライプのセーターに濃紺のプリーツスカートを品良く着こなしている。
 一週間のうちで土曜の昼下がり以上にリラックスできる瞬間など、とても僕には思いつかないのに、彼女からは弛緩した意識を感じない。
 だけど僕はそれが、彼女の美徳の一つだとも思う。類を見ない気高さ。


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