48: ◆zsQdVcObeg[saga]
2017/02/12(日) 00:44:53.19 ID:BcSldTJc0
「なにしてるの」
「なにもしてない」
その日も、空はよく晴れていて、屋上は、ちょうどいい暖かさになっていた。
私は鉄のはしごで塔屋に登ってから、給水タンクの影に座り込んで、中庭を眺めた。
未来人の方を見ると、日傘を立てかけて、ハンカチを敷いた上にちょこんと座って、空を見上げていた。
「今日はあんまり眩しくないね」
私がそう言うと、未来人は、
「そうかな」
と、呟くように答えた。
青く見えてしまうほどに細く黒いその髪は、屋上の風に吹かれて、不規則的に美しく揺れていた。
群青色の香り。
「ねぇ」
私は尋ねる。
「どうしてあの時、来てくれたの?」
少し間をおいて、未来人は振り返った。
「未来が見えるよ」
座ったまま身体をこちらに向けて、彼女は言い直した。
「私には、少しだけ未来が見える」
「うそだ」
「ほんとだよ」
未来は見えないにしても、すごく勘がいいとか、いろんな情報から予測してるとか、そう言う才能はあるんだろうなぁ、と、私は漠然と考えていた。
「次、中村が来るよ」
未来人がそう言うので、私は未来人の隣まで行って、2人で、塔屋の上から扉をのぞき込むような体制になった。
確かに、足音が聞こえる。
扉の前で、2回、足踏みが聞こえる。
未来人が足を引っ掛けてぶら下がって、鍵を開けてから、曲芸師のような動きで元に戻る。
扉が開くと、出てきたのは、山田だった。
「山田じゃん」
「……未来は不規則に分岐しつつある」
「え、な、なにが?」
山田は困ったような顔をしていた。
私は少し笑った。
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