過去ログ - 武内P「女性は誰もがこわ……強いですから」
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◆SbXzuGhlwpak
[sage]
2017/02/18(土) 10:47:36.70 ID:NfQFDkL+0
X:そこの酔っ払い。昨夜のことは貴女のところの小さいのに話したの?
白坂さんとの衝撃の会話を終えて、どれほど呆然としたまま膝を着いていたのかわかりません。
同期に肩を叩かれ気がつけば始業時間がもうすぐそこでした。
同期は私の呆然とした姿とキスマークから何かを察したようで、痛ましい表情をしたものです。
「すまん。助けてやりたいのはやまやまなんだが、俺も差し迫っててな。まゆがいつの間にか俺の両親と挨拶を済ませて――いや、聞かなかったことにしてくれ」
お互いプロデューサーとして恥じない行動をとろうと言い残し立ち去る彼の背中は、戦いに勝てるから挑むのではなく、敗北必至であっても戦う理由があるから挑む手負いの戦士のそれでした。
その姿を自分に重ねてしまうのはなぜでしょう。
不吉な予感を振り払うように早足で職場に向かいます。
しかしCPルームに入る直前になって、キスマークの存在を思い出しました。
もう始業まで時間はありません。
やむなく私は首に片手をあてたまま入室し、アイドルの皆さんと顔を合わせたのでした。
私はクセでよく首に手を当てていますが、その場所は首の後ろであって首の横ではなく、常にその体勢なわけでもありません。
最初の方こそアイドルの皆さんは少し不思議そうな顔をされるぐらいであったのが、私が終始手を当てたままなことに違和感を強めていきます。
――それとこれはきっと気のせいなのでしょうが、渋谷さんの視線が冷たいというか、重いような気もしました。
いつ誰が私の首について言及してもおかしくない雰囲気となった頃に、皆さん移動の時間となり助かりましたがこのままではいけません。
医務室で絆創膏かシップをもらって隠すことにしましょう。
キスマークを手で覆ったまま医務室に向かっていますと、十字路から紺色のスカートがわずかにのぞいて見えました。
「……これは?」
見覚えのある色と布地に立ち止まりよくよく観察すると、影が中央に浮かび上がっていることに気がつけました。
太陽の角度から推測するにその人物は小柄で、髪の一部が外にハネています。
何となくではありますがこのまま進めむと起きることが予想できました。
私は歩みを再開して十字路に近づきます。
そしていざ十字路にさしかかる手前で足踏みをすると――
「とおおおーっっってアレレ!!?」
私の一歩先の空間めがけて輿水さんが飛び込みました。
何かするつもりだろうとは思っていましたが、これは予想外です。
このままでは輿水さんが顔ないしは胸から落ちると慌てて支えました。
「ハァ……ハァ……こ、怖くなんかなかったですからね? なんせボクはカワイイうえにコワイイんですから!」
「は、はい」
「あ、ところでプロデューサーさん! なぜ途中で立ち止まったんですか!? ボクが隠れているって気づいたんですか?」
「ええ。スカートの裾が見てまして」
「はあ。まったく、本当にプロデューサーさんはボクがいないとダメなんですねえ」
いったいどのような理由でダメだしをされるのか。
輿水さんの輿水さんによる輿水さんのための理論は聞いていて微笑ましいものばかりで、担当であった頃は業務の忙しい日などに癒しとして重宝させてもらいました。
傾聴するために父親が子どもにする飛行機ごっこのような体勢で支えていた輿水さんを、ゆっくりと廊下に降ろします。
輿水幸子
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