過去ログ - 武内P「女性は誰もがこわ……強いですから」
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◆SbXzuGhlwpak
[sage]
2017/02/11(土) 16:56:56.06 ID:u9Op5e3S0
「え? ええ〜?」
「城ヶ崎さん、お怪我は?」
「いや、別に痛くないんだけど……え、なんで!? なんで指がとれないの!?」
どうやら緊張がほぐれていたのは表情だけだったようで、指は私の手に絡められた状態で固まっていたのです。
「うっそ……恥ずぃ」
「……レッスンの疲れでしょうか。指先がキレイに伸びきった姿は魅力的ですからね」
「……ッ!? そ、そうだったそうだった! トレーナーさんによくほぐすように言われてちゃんとしていたつもりだったんだけど、足りなかったみたい★」
恋愛経験が豊富であるように見せている彼女の面子を守ろうと、とっさに思いついた言葉でしたが受け入れてくれたようです。
城ヶ崎さんだけではなく私も安心しつつ、小指から順に、間違っても傷つけないようにそっとほどいていき――
「ちょ、ちょっと待った!」
「はい?」
薬指にさしかかった時でした。
平静を取り戻したと思っていた城ヶ崎さんが、今日――いえ、今まで見た中で一番顔を赤くして硬直しています。
その瞳は潤み、夢うつつの中にあるかのようでした。
「それ……左手……」
「え、ええ。左手ですね」
「ゆっくり……優しくしてね」
今にも消え入りそうな儚げで城ヶ崎さんらしからぬ声が気にはなりましたが、このままというわけにもいきません。
許可も下りたので、小指の時よりもさらに慎重にとりかかります。
細長く形を整えられた水色の爪をまかり間違っても傷つかないようによけつつ、節くれだった無骨な私の手が触れていいものかとためらってしまうガラス細工のような指をそっとつまみます。
柔らかな指はしっとりと、そして外気のせいでヒンヤリとしていて、暖めてあげなければという思いからつい握り締めたくなります。
薬指をほどき、そして最後の親指が終わるまで、城ヶ崎さんは一言も発しませんでした。
私も指をほどくのに集中していて、城ヶ崎さんの様子はうかがえません。
ただ、絡まった指を覗き込むために前かがみになった私の首筋に当たる吐息から、城ヶ崎さんの呼吸がどういうわけか不規則なように思えました。
「これで終わりです。痛くなかったでしょうか?」
「……大丈夫。優しくしてくれたから」
城ヶ崎さんはまだ夢うつつの中にあるのか。
私から目をそらしながら今にもよろけそうな具合で立ち上がる。
様子のおかしさから送って行かなければと私も立ち上がりかけた矢先のこと。
それを制止するかのようなタイミングで彼女は数歩先で立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
「デートのお誘い……楽しみにしてるから」
「……ッ!?」
それは、初めて聞く声音でした。
細められた流し目、内に込められた想いが漏れ出ているかのような白い吐息、紅潮した頬。
それらと相まって、抑揚をおさえようとして、しかしわずかに抑えきれていない音色は、まるで女の情念が込められているかのような錯覚を起こします。
私が返事をすることができないまま硬直し、落ち葉を踏みしめて去っていくその姿をただただ見送ることしかできませんでした――
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