過去ログ - 一ノ瀬志希「フレちゃんは10着しか服を持たない」
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8: ◆Freege5emM[saga]
2017/02/13(月) 02:30:56.79 ID:bfxHdujzo

その日のフレちゃんは、黒レースをあしらったキャミソールの上に、
さらに薄紫の透け感のある長めのキャミソールをもう一枚重ねて、
ボトムスはベージュの活動的なショートパンツだった。

『もうちょっと春に寄せたほうが良かったかな?』とは本人談だけど、
あたしの意識では、どっちがいいか判断しかねた。

あたしはフレちゃんと一緒に春物を見て回った。
フレちゃんに色々アドバイスしてもらったり、逆にあたしがフレちゃんのチョイスに感想をあげたりした。
着せ替え人形になるのもかわりばんこだったので、夕方になる頃の疲れ具合も程よい感じだった。

あたしはフレちゃんと一緒に歩いているだけで刺激的だったのだけど、
フレちゃんはその日あたしと色んなジャンルのお店をハシゴしたのに、結局服は一着もレジに通さなかった。

「今日は、フレちゃんのおメガネに叶う一着は見つからないかなぁ……」

あたしはフレちゃんがどんな服を自分に選ぶか楽しみにしていたので、
まるで自分が何も買えなかったような落胆ぶりで声に出してしまった。
フレちゃんみたいに服飾デザインを勉強してると、こだわりも強くなるんだろうか。

「うーん、今ある服と入れ替えてもいい、ってのは無かったかなぁ」

あたしはフレちゃんの言葉で、アイドルの衣裳部屋並にずらりと服のかかった光景を連想した。
しかし、あたしはその後『ちょっとうちで休んでいきなよ』とフレちゃんに誘われて、
それで頼んで見せてもらった収納は、セーター、ブラウス、パンツ、スカート……

「あれ、意外とスッキリしてるねぇ……」

そこにかかっていた衣類は、何度数えても両手の指で足りた。
上着やアンダーシャツやアクセントがそこにはなかったので、それは別に保管しているのだろうけど、
それにしても衣装持ちを想像していたあたしの予想は大外れだったわけだ。
アメリカのオシャレ面したセレブリティは、クローゼットに入り切らないほど服を詰め込んでおいて、
まだ足りないまだ足りないとノードストロームを右往左往していたのに。

あたしが率直な感想を漏らすと、フレちゃんは、

「パリジェンヌだったらこんなもの……ママの受け売りだけどね。
 日本もどっちかといえばパリ寄りじゃないかなぁ。アイテムの数を絞り込んで組み合わせで着回しを考えて、って」

と語った。

そして服飾デザイナー志望者とは(少なくともあたしの観点からは)思えない話が続けて飛び出す。

「今この季節、今のこのアタシの体型にぴったりとくる服なんて……10着も見つけられればいいほうじゃない?」



あたしは、試しに今フレちゃんが着ているキャミソール2枚とショートパンツを着た自分を想像した。

サイズは……まぁ、大丈夫なハズ。しかしそれ以外は、ムリ。
そもそも金髪ショートボブのコーデを、黒髪でロングでウエーブのあたしが着るとか、
頭の先とアウターのカラーリングの時点で『もうちょっと他になかったの?』と思われてしまうだろうし、
たとえ他人にそう思われなくてもあたしが自分でそう思ってしまうのでアウトだ。

「ママが言ってたの。パリジェンヌは、今の季節、今の自分にぴったりとくる服だけをクローゼットに入れる、って。
 チェックすることは色々あるよね。カラーやデザインはアタシに合ってるのか。サイズはぴったりか。
 出入りする場所や行動範囲に合っているか。地元の気候に合っているか。着心地はどうか。
 アタシ自身の趣味に合っているか。買ったあとにしても、ほつれたりヨレたりしてないか……」
「そこらへんを厳しく吟味してくと、10着ぐらいになっちゃう……ってコト?」

その時のあたしは、たぶんフレちゃんの言を芸術家肌のこだわりのように受け取っていたけど、
あたしの内心を見透かしてか、フレちゃんは軽く笑って自説を続けた。

「絞るのはたいへんに感じるかもしれないけど、そのほうがファッションを楽しめる気がするの。
 どれ着てもハズレなし! と自信を持ってチョイスしたクローゼットなら、見てるだけで嬉しくならない?」

あたしはフレちゃんの収納を改めて端から端まで見た。
その一着一着が、フレちゃんの微に入り細を穿つセンスのふるいにかけられたお気に入りの品、という。
確かに、いくら気さくなフレちゃんだって、誇らしく思ってなかったら、
こんなプライベートなところをあたしに頼まれて見せたりしないだろう。

まぁ、あたしがあまり食い入るように見つめていたせいか、
すぐに『ハイ、もーフレちゃん秘蔵のコレクションはおしまいっ!』と閉められてしまったけど。

「……それに、服の数が少ないのはいいよ。出かけるときにすぐ服が選べて、そのぶん朝ゆったりすごせる」
「それは大事だね。うん、とっても大事」

もう一つ付け加えられた実利的な理由に、あたしは秒速で首肯した。


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