過去ログ - 一ノ瀬志希「フレちゃんは10着しか服を持たない」
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9: ◆Freege5emM[saga]
2017/02/13(月) 02:31:34.05 ID:bfxHdujzo

「やっぱり、フレちゃんはすごいなぁ」

あたしは扉を閉められたクローゼットを見やり、改めてフレちゃん流への感銘を述べた。
フレちゃんはたくさんのお店を見て回って、自分が着るにふさわしい服をこだわって選び抜いているのに、
あたしときたらプロのアイドルのくせして衣装をスタイリストさんやプロデューサーに投げっぱなしだ。

例えば、ズラリとサンプルを並べた事務所の衣装室から、あたしは自分の衣装候補を10着選び抜けるか。
またスタイリストさんやプロデューサーが選んでくれた衣装に対し(普段着とステージ衣装の違いがあるとはいえ)
フレちゃんの半分でも頭のなかで吟味していたか。漫然と袖を通していなかったか。
これはもったいない。あたしはまだまだ面白いことを見落としてた。

「フレちゃんと話してるだけで、毎日が楽しくて、スタイルも洗練される気がするよ。
 フレちゃんみたいなお姉ちゃんがいたら、あたし今よりずっと女の子らしかったかなぁ」
「持ち上げすぎだよ。アタシ、そんなすごいヒトじゃないって」

あたしの賛嘆に対して、フレちゃんは珍しく曖昧な笑みを浮かべた。

「服について、えらそうに語っちゃったけどさ。アタシ、最近まともに大学に行けてないもん。
 サボりすぎて友達からレアキャラ扱いされちゃってるぐらい」
「……そういえば、フレちゃんって服のお勉強してるんだよね。
 将来はココ・シャネルみたいに、世界にフレデリカ・ミヤモトのブランドを広めちゃう?」

あたしはフレちゃんがデザインしたブランドを夢想した。
服のセンスに自信がないあたしは、服より先に『FREDERICA MIYAMOTO』とサンセリフで記された香水壜が思い浮かぶ。
それはきっとあたしがフレちゃんに気づかせてもらったように、日常の輝きを浮き彫りにしてくれる香りだ。

「ねぇねぇ、もしフレデリカ・ミヤモトのブランドができたら、あたしに香水作らせてよ!
 あたし、こう見えて香水は結構自信あるんだ!」
「フレデリカ・ミヤモトのブランド、かー……ブランド立ててモード作れるほどの個性、アタシにあるのかなぁ?」

あたしは絶句した。
フレちゃんをして『個性、アタシにあるのかなぁ?』と言わしめるファッションデザイン業界とは一体……。
そこに詳しくないがゆえに、あたしはますます想像をたくましくした。一体どれだけの逸材がひしめいてる世界なのか。
ひょっとすると個性の濃さで、アイドル業界すら上回ってるかもしれない。



「やっぱりブランドを立てる人はどこか違うらしいね。
 アタシは高校時代に『ママ譲りのルックス、生かさないのはもったいない』って友達に勧められて、
 ちょっとだけモデルをやってたことがあるから、噂ぐらいなら聞いたことあるけど」

あたしの夢想はフレちゃんの歩くランウェイへ飛躍した。
こりゃデザイナーさんも気合が入るだろう。
下手な服を着せたら、視線が服からフレちゃんに奪われちゃう。

『フレちゃんにモデルの経験があった』という蜜を得て、あたしの空想はハチドリのごとく猛スピードで飛び回った。
はしゃぎすぎちゃって、香水だけじゃなく、コートだの、化粧水だの、バッグだの、ヘアカラーだの、
まだ見ぬフレデリカ・ミヤモトブランドの構想を、フレちゃん当人じゃなくあたしがまくし立てて、
あたしはマダム・ミヤモトやムッシュー・ミヤモトが帰ってきたのにも気づかなかった。



あたしのフレちゃんに対するのぼせっぷりは盲目の境地に達していた。
そして当時のあたしにその自覚はまったくなかった。
誰かに『憧れる』なんて、一ノ瀬志希の人生で初めてだったから。


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