過去ログ - 六畳世界から考察するチョコレートと恋愛ごとにおける関係
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179: ◆jZl6E5/9IU[saga]
2017/03/02(木) 23:00:25.86 ID:3fRTx7810
以上をもって、この物語を了としたい。私の阿呆な踊りについての語りは想定していたよりも時間がかかったおかげで、もう時刻は零時を過ぎている。二月十四日に行われる、バレンタインという名の三百六十五日ある長い一年の中でも特に一過性であると思われる行事の日はとうに終わり、二月十五日というなんでもない日がやってきたのだ。もうバレンタインだかいう日の旬は終わりである。

私は現在、元田中の下宿へと戻り、こうして今日の出来事をまとめさせていただいている。まとめるのに多少の糖分が必要であったので、例のもちぐまチョコを私は大切に一つ一つ賞味していた。うむ、甘い。元来の私はそれほどに甘いお菓子は得意ではない。しかしながら、頭脳労働には甘味の補給が大事である。

さて。読者諸賢も、この実例を通じて、以前に述べたことについてよく理解してもらえたことだろうと思う。そう、成就した恋ほど語るに値しないものはないのだということを。
以下略



180: ◆jZl6E5/9IU[saga]
2017/03/02(木) 23:02:26.36 ID:3fRTx7810
翌日、二月十五日の夜。私は小津を誘って、夕食へと出た。もちろん場所は、二人で普段から食事をするためにちょくちょく来る居酒屋である。

座敷に通された私は、さっそく小津の代わりに注文をしてやった。すぐに注文の品、きのこと野菜がたっぷりと入り、あっさりとした鶏肉に味噌出汁が効いた、絶品のきのこ鍋が届いた。

それを見るや小津はすぐさま逃亡を図ろうとしたが、すっかり馴染みの呪文「小日向さん」の詠唱によって、私は彼を呪縛してみせた。
以下略



181: ◆jZl6E5/9IU[saga]
2017/03/02(木) 23:04:14.17 ID:3fRTx7810
その様子に、小津が入院していたときに初めて勝利したときのことを思い出し、私は愉快な気分に浸りつつも、ちゃんと食え、と小津に説教めいた口調で言いながら、自分の分を取った。それからむぐむぐと野菜を味わいながら、じとりと射抜くように小津を睨みながら開口した。

「まったく。どうしてお前はこうも面倒なことをするのだ」

「いいじゃないですか。おかげで明石さんにやっとちゃんと愛の言葉を告げられたのでしょう?」
以下略



182: ◆jZl6E5/9IU[saga]
2017/03/02(木) 23:06:19.92 ID:3fRTx7810
一つため息を吐くと、私は小津を見据えた。

「どうしてお前はそうやって私に付きまとって余計なことをするのだ」

小津はにやにやと笑った。
以下略



183: ◆jZl6E5/9IU[saga]
2017/03/02(木) 23:07:48.95 ID:3fRTx7810
むかっ腹にきたので、私は鍋から一つの傘の大ぶりな椎茸を箸で掴むと、小津の口に突っ込んでやった。

小津は涙目でむーむーと両手を振り回してきたが、「小日向さん」の一言ですぐさま大人しくなって、その憎まれ口を叩くための口を働かせ、椎茸を咀嚼した。彼にとっては健康への第一歩たる菌類の使者の味はあまりにも美味かったらしく、小津はさめざめと泣いた。

完全なる菌の塊を胃の中へと納めると、小津は目尻にいまだ失せぬ涙を溜めたまま、聞き返してきた。
以下略



184: ◆jZl6E5/9IU[saga]
2017/03/02(木) 23:09:39.30 ID:3fRTx7810
小津。弱者に鞭打ち、強者にへつらい、わがままであり、怠惰であり、天の邪鬼で、勉学に精を出すこともなく、誇りのかけらもなく、他人の不幸をおかずにして飯が何杯だって食えるような、およそ誉めるべきところが一つもない男である。

もし彼と出会わなければ、きっと私の魂はもっと清らかであったろうと、やはり今でもそう思う。しかし、そんな小津に出会ったからこそ、私は曲がりに曲がった現在の有様へと向き合うことができているのだ。それだけは、肯定的に捉えられることであった。

私は改めて、この唯一の友人へと居住いを正して向き合う。
以下略



185: ◆jZl6E5/9IU[saga]
2017/03/02(木) 23:10:19.43 ID:3fRTx7810



♪ 迷子犬と雨のビート/ASIAN KUNG-FU GENERATION

以下略



186: ◆jZl6E5/9IU[saga]
2017/03/02(木) 23:19:00.46 ID:3fRTx7810
PVでもあればと探したのですが見つからなかったので皆様のセルフでお願いします。以上をもちまして投稿は終わりです。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。ほぼ思いつきの勢いだけで始めた話ではありましたが、どうにかほぼ毎日書くことができました。一日一日に即興で書いていることとうろ覚えもあって、だいぶ細かな修正や訂正を何度も入れてしまいましたが、こうして無事に終われてよかったと存じます。読者諸兄に少しでも楽しんでいただけたのなら恐縮の極みであります。「夜は短し歩けよ乙女」公開までおよそ残り一ヶ月となりました。映画のヒットをお祈り申し上げると共に、森見氏の素晴らしい作品の映像化に感謝を。

最後に夜は短しのPVのリンクだけ貼らせていただきます 長ったらしい文章で最後まで失礼 では

ttps://www.youtube.com/watch?v=tmeU9GFJW3I


187:名無しNIPPER[sage]
2017/03/02(木) 23:52:53.42 ID:N4Vq188Do
また阿呆なものを作りましたねえ
良かった、乙!


188:名無しNIPPER[sage]
2017/03/03(金) 00:32:15.55 ID:/OOWNNyyO
面白かった!
次は有頂天家族だね(ニッコリ


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