過去ログ - 森久保「私に似ているプロデューサーさん」
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◆8AGm.nRxno
[saga]
2017/02/24(金) 09:58:13.23 ID:UKsbEgqz0
俺はアイドルと目を合わせられない。これは俺が心地よい生活を続けるために、勤勉な人間を視界から締め出し続けた結果だ。
だが果たして森久保乃々は勤勉な人間だろうか。
答えは否だった。
「…あ、あの……」
新しくプロデューサーになるということで、今は顔合わせも兼ねたミーティングをしている。
前に担当していた彼女以来、こうしてアイドルと仕事の話をするのは初めてだった。担当時代はスケジュール確認によく使っていたこの会議室も、えらく懐かしいものに感じる。
ここに来るまではどうこの子と付き合っていこうかと気を揉んでいたが、考えてみれば森久保は他のアイドルと違って輝いていない。
その目にも情熱は宿っておらず、鈍い茶色の光を返すだけだった。
俺が恐れていた輝き、アイドルらしさを微塵も感じない。俺でもしっかりと目を見ることができた。
しかし対する森久保本人は俺を前にして警戒しているようだ。目を合わせようと努力していることはわかるが、一瞬合えばすぐ目線が泳いで明後日の方向に向かう。
…はたから見たら俺もこんな感じだったのだろうか。
「話は聞いていると思うが、担当プロデューサーが変わることになった。今日から森久保の担当になるPだ。これからよろしく頼む」
あ、はいよろしくお願いしますと返事をしてから森久保は言う。
「あの…私、アイドルとかになるつもりはなくて…ここに来たのも色々な巡り合わせが悪かったからで…だからその…」
「大丈夫だ。わかってる。意外に思うかもしれないが、俺は森久保を積極的にアイドルとして活動させていくつもりは無いんだ」
森久保の顔がわかりやすく反応する。彼女の表情からは7割の期待と3割の困惑が見て取れた。
「ほ、ほんとですか?」
「ああ、本当だ。第一本人が乗り気じゃない状態でアイドル活動はできない。だけど事務所を辞めるなんて極端なこともできない。君の親御さんは乗り気みたいだし、俺にも上司がいるからその人の方針には逆らえない。わかるか?」
はいと返事をする森久保の声は明らかにワントーン上がっていた。
「それでこれからのことだが、とりあえずレッスンは今まで通り受けてくれ。トレーナーさんの話では、スピードこそ遅いが最初の頃と比べれば見違えるような出来になっているそうだ。早ければあと一か月くらいで集団レッスンに混ざれるとも言っていたぞ」
うえ…と嘆息を漏らす森久保を嗜めて続ける。
「大丈夫、外部に向けた活動はしばらく控える予定だ。その代わり毎回のレッスンの後に俺と少し話をしよう。レッスンが終わってシャワーを浴びたらこの会議室に来てくれ」
「面談ですか…?やっぱり私にアイドルを……」
「話は最後まで聞け。大きな声では言えないが、この面談は俺が森久保を説得しているということを上司にアピールするためのものだ。実際にお前がやる気になる必要はない」
キョトンとした瞳が俺の目を捕らえる。なんだ、俺の目見れるじゃないか。
「正直なことをいうとな、俺はお前の担当になれてラッキーと思っている。俺は担当のいない間は事務の補佐として働いていたが、森久保の担当になったおかげでその仕事が減った。その上お前にはやる気がないから、プロデューサーとしての仕事もほとんど無い。いいことづくめだ。」
森久保の顔に明るさが宿る。そうだろう、お前はこういうプロデューサーを望んでいたんだろう。ならば俺たちはwin-winの関係になれる。
「俺に仕事をサボらせてくれ。そうこうしているうちにお前の親御さんや俺の上司の気が変わって、事務所がお前を手放す気になるかもしれないしな」
最後のは少し嘘だった。事務所はとっくに森久保を手放したがっているのだから。
俺は森久保のプロデュースに失敗すればクビになる。そして俺の生半可な知識で彼女をアイドルとして活動させれば必ず失敗する。
ならば俺のとるべき行動は一つだ。森久保をアイドルとして活動させなければいい。
要は時間稼ぎだ。こうすれば森久保が仕事で失敗することも、その結果俺と森久保がクビになるのも最大限先送りにできる。
幸いなことに時間稼ぎの材料は豊富にある。本人のやる気、レッスンの成績、プロデュース方法の検討、先輩のプロデューサーが二か月もの間成果を出せなかったという事実。
クビになるまでの猶予期間、俺は楽に過ごしてやる。
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