過去ログ - 小関麗奈「今日はレイナサマの勝ちね」南条光「ま、まだだ!」
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◆97Mk9WqE8w
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2017/02/26(日) 20:33:48.18 ID:4fMEElnd0
寒空の下、反射光を煌かせるビルのたもとを、南条光(なんじょうひかる)は全速力で駆けている。
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◆97Mk9WqE8w
[sage saga]
2017/02/26(日) 20:35:01.36 ID:4fMEElnd0
二月上旬の週末の空気はまだ冷たく、光の吐く息は白い。
ボーイッシュなカジュアルスタイルで、かすかに深緑のはいった長い黒髪と真っ赤なマフラーをなびかせ、四、五階建てのビルが並ぶ大通りを一直線に進んでいく。
小さい体で懸命に腕をふる彼女の後ろを、着かず離れずの距離で追走するは小関麗奈(こせきれいな)である。
以下略
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◆97Mk9WqE8w
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2017/02/26(日) 20:36:31.21 ID:4fMEElnd0
「レイナこそ。……ハッ、ハッ……でも、先にレッスン場に着くのはアタシだッ」
「いいや、今日は負けないわよ! てか、名前で呼ぶなッ」
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◆97Mk9WqE8w
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2017/02/26(日) 20:37:11.94 ID:4fMEElnd0
光の視野は麗奈の後姿を捉える。
しかし、次の瞬間にその背中は曲がり角の先に消えた。
麗奈を見失わないように、すぐさま光も角を曲がる。
二人の勢いに驚いて、道端で寝転んでいた猫たちが「にゃあぁぁ」と逃げ惑う。
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◆97Mk9WqE8w
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2017/02/26(日) 20:37:42.05 ID:4fMEElnd0
輪をかけてマズいことに、次の曲がり角をどちらに行けばいいかの見当が光には皆目つかない。
もしかしたら、これが麗奈の狙いだったのかもしれない。
それでも、光はその足の運動を止めようとしなかった。
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◆97Mk9WqE8w
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2017/02/26(日) 20:38:17.30 ID:4fMEElnd0
ロビーに置かれている机で肩肘をついている麗奈。
彼女は光を見ながら「イヒヒ」とイタズラに笑う。
一方の光は「ぐぎぎ」と固く拳を握った。
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7
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◆97Mk9WqE8w
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2017/02/26(日) 20:39:09.05 ID:4fMEElnd0
事の発端は些細な悪ふざけだった。
一月末だったか、駅からレッスン場まで向かう道中。
麗奈が、自分の前を歩く光を見つけたときだった。
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◆97Mk9WqE8w
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2017/02/26(日) 20:39:35.90 ID:4fMEElnd0
光と麗奈は芸能事務所であるグラススリッパープロダクションの同じ部署(事務所内ではパッション部門と呼ばれている)に所属している。
二人が知り合ったのは、つい最近
――二ヶ月前のことだ。
以下略
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◆97Mk9WqE8w
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2017/02/26(日) 20:40:09.69 ID:4fMEElnd0
そんな、にっくき自称正義の味方が目の前で呑気にテクテクしているものだから、麗奈の小悪党心に火がついた。
麗奈は勢いよく光を抜き去り、「あっ、レイ――」と言いかける光を振り返って一瞥した。
そして、「アッカンべべべー!」と小馬鹿な調子で小馬鹿にしたかと思うと、「お先に!」と逃げ去ろうとしたのである。
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◆97Mk9WqE8w
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2017/02/26(日) 20:42:07.64 ID:4fMEElnd0
第一戦の結果だけ言えば、単純な走力の差で光に軍配が上がった。
言ってしまえば返り討ちにされた形である麗奈の気分は良いはずもない。
リベンジの機会をうかがうは必定。
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◆97Mk9WqE8w
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2017/02/26(日) 20:42:34.44 ID:4fMEElnd0
二戦目に惨敗を喫した光はその後のレッスンでも、青木に
「どうした? いつにも増して動きが固いぞ」
と言われる始末。
光にしてみれば、目が合うたびドヤ顔をキメる麗奈を気にするなと言う方に無理がある。
以下略
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◆97Mk9WqE8w
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2017/02/26(日) 20:43:19.20 ID:4fMEElnd0
「下見? そこまでしたのか!?」
「当然よッ。イマドキの悪は頭を使うの。正義の味方みたいにタイマンやってちゃ勝てないのよ、悪の世界は」
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◆97Mk9WqE8w
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2017/02/26(日) 20:45:05.78 ID:4fMEElnd0
レッスン着を鞄にしまいこむ光の胸中に、悔しさだけでなく、じりじりとかわいた感覚がこみ上げてきた。
(まさか、レイナがそこまで準備をしていたなんて……)
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◆97Mk9WqE8w
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2017/02/26(日) 20:45:47.26 ID:4fMEElnd0
周りの様子をしっかり窺いながらその路地
――先ほど麗奈との競争を決定的にした路地裏へと歩みを進める。
側面を一五メートルほどのビルたちに挟まれており、道幅は広いところで二メートルといったところだろうか。
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◆97Mk9WqE8w
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2017/02/26(日) 20:46:20.44 ID:4fMEElnd0
路地から出た光は、そこから駅までの最短直線を調べて歩く。
それは少し開けた住宅地にある公園を突っ切っている。
公園は四方を低い生垣で囲まれていた。
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◆97Mk9WqE8w
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2017/02/26(日) 20:46:47.51 ID:4fMEElnd0
あまりにもじっくりこちらを見ているものだから、光は軽く手を振ってみた。
芸能事務所に所属している光は、アイドルだ。
麗奈もそうである。
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◆97Mk9WqE8w
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2017/02/26(日) 20:47:13.22 ID:4fMEElnd0
しかし、当然の結果でもあった。
アイドルをやっていると言った。あれはウソだ。
厳密には、アイドル「候補生」なのである。
光も麗奈も。
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◆97Mk9WqE8w
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2017/02/26(日) 20:48:57.06 ID:4fMEElnd0
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あれからちょうど一週間が経った晴天のある日。
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◆97Mk9WqE8w
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2017/02/26(日) 20:49:27.35 ID:4fMEElnd0
堂々とした出で立ちではあったが、先週のこともあり、どこか頼りなげでもあった。
(いや! 大丈夫だ。ヒーローはこんなことじゃ挫けない)
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◆97Mk9WqE8w
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2017/02/26(日) 20:49:53.21 ID:4fMEElnd0
麗奈の爛々と輝く眼を見ると、不思議と光の胸のうちにもかすかな熱を帯びたドキドキが生まれた。
「レッスン場に着くのもアタシの方が早いぞ」
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◆97Mk9WqE8w
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2017/02/26(日) 20:50:22.35 ID:4fMEElnd0
最初の三歩を踏みしめる光。
次の四歩目でさらに加速する――しようとした瞬間。
「おわあっ」
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