6:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 23:26:46.59 ID:YshUHtoF0
「ここで待っててくださいよ。ふらふらどこかへいかないように」
「志保は私をなんやと思ってるんや」
「いや、子どもと同じだと思ってるから言ってるんですけど……」
「オブラートに包もう……な?」
不意に何かに気づいたのか、奈緒さんがぼけっと空に目をやった。私も同じように視線をあげる。
雨はまだやんではいない。
けれど、遠くの空には雲の切れ間が出来ていた。
向こう側に濃い藍色が見える。
太陽はまだ落ちきっていないのか、そこにうっすらと放射状の光がみえた。それが雨に透けている。
みると通りを歩く人も足を止め、空に視線を投げていた。
珍しい光景に、スマホを取り出す人もみえる。
きれいだな、とシンプルに思った。多分、写真にするとなんてことない景色なのだと思う。
でも、普段歩く街並みの色がこんな風に変わるなんて、中々みられない気がしたのだ。
しばらくそれに目を奪われていると、視線を感じた。
みれば隣の奈緒さんがにこにこと笑っている。
サンシェードと傘の間を縫って降る雨が、光に触れて一瞬だけ青く輝いたようにみえた。
「空をみてくださいよ」
「いや、きれいな景色をみて呆けとる志保の方が——おもしろかったからなぁ」
「……傘はいらないわけですね」
「それとこれとは話が別やろ! それに……ほら、わらっとったんは他にも理由があって……あれ、なんやったっけかな……」
奈緒さんが空を見上げて唸っている。
最近、小鳥さんが偶に単語が出てこないと悲しんでいる時があるけれど、もう奈緒さんにも来てしまったのだろうか。
加齢ってこわい。
「百合子に教えてもらって……あれ、なんやったっけ……天使がどうとかで……話の流れにあっとるなと……
いやネタを説明したいわけやないねんで、ちょっと、ちょぉっと疲れてるから言葉が出ないだけやで……?」
「天使……? あぁ、天使のはしごですか」
雲の切れ間から太陽の光が差し込むと、ハシゴが降りてきているようにみえる。
今回だと日没直前だから光は上の方に伸びているし、隙間も小さいからとてもハシゴにはみえない。
こういう時にでもあてはまるのかな?
ともかく、その辺りの細かいことは気にしないのか、奈緒さんは、それっ、と嬉しそうに手を打った。
20Res/14.22 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。