6:名無しNIPPER[sage saga]
2017/04/01(土) 01:23:37.76 ID:rBrxam3H0
「杏ちゃん、今日も良かったねー、この調子で、明日も頼むよ」
「ありがとうございますー、がんばります」
いつもの調子で杏は返事をする。今日も今日とて収録だった。どうやら、この作品の監督に気に入られたらしい。
「ところで......杏ちゃんって相方いたよね、あの、でかい女の子」
「......はい、いますよ」
ーーなんかいやだなあ、そういう言い方。
まあいつものことだろうと聞き流す杏に、監督は無神経な言葉を投げる。
「彼女、最近見ないけどどう? 正直色物すぎるから、アイドルとしては寿命は短いと思うけど......でも杏ちゃんの相方だし、今度出してあげようと思うんだけど、どうかな」
ーーなんだと。
後半は聞こえていなかった。監督から見えないその右手は、血管が浮かぶほど強く握りこまれていた。
ーーお前に何がわかるんだ。きらりがどれほどひたむきに、どれほど悩みながらアイドルをやってきたと思ってるんだ。
「.....きらりと相談してみますね、スケジュールのかみ合いもあると思いますし」
それを言うので精いっぱいだった。
一番きらりをそうさせているのは自分なのに、怒る権利などあるのだろうか。
どこに向ければいいのかわからない悔しさを、歯を食いしばって耐えることしかできなかった。
普段からなめてる飴も、その日は味がわからなくて、途中でかみ砕いて飲み込んでしまった。
ーーこんな風にこの怒りも、すんなり飲み込めればいいのに。
ーー私は、きらりが大切だ。
ーー小さい頃独りぼっちだった私を助けてくれた。
ーーいつか恩返ししようと、きらりのためなら頑張ろうと、ずっと思ってた。
ーーけれど、いざ本気で頑張ってみたら、大切なきらりを傷つけるだけだった。
ーーもうこんなのは嫌だ。
ーー今度こそ私が、きらりにちゃんと恩返しをするんだ。
杏は、以前よりさらに仕事を増やした。
「プロデューサー、杏はいくらでも働く、どんな仕事でもやる。だから、きらりにもチャンスをあげて。共演でも何でもいいから」
「きらりは杏なんかよりもずっとずっとアイドルにあこがれてきたの。お願い」
百年に一度くらいしか見れないほど珍しい杏の真剣な顔での願いが通じたのか、プロデューサーは了解してくれた。
杏はほぼ休みなく働いている。ぐうたらニートだったころの彼女が今の自分の姿を見たら驚きで気を失うんじゃないかというほどに。
そして、きらりの仕事もだんだん増えていった。杏ほどではないが、暇な日が確実に少なくなってた。
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