10:znAUHOH90 9[sage]
2017/04/05(水) 01:52:05.72 ID:znAUHOH90
「−−−−奏。」
東京の海沿いで佇む後ろ姿が振り返る。
はじめて会った場所だ。
潮の匂いは変わらないが、彼女の佇まいは変わった。
表情も、あの時とは違う。
「時間かかっちゃったよ。ごめんな。」
「……ご苦労なことね。」
すぐに海の方を向いてしまう。涙声もそっけない。
「あの時とは、随分変わったよな。あの速水奏がこんなところにいたら、今じゃ大騒ぎになる。」
「……こんな顔じゃ、誰も気づかないわよ」
「どっからどう見たって速水奏さ。俺は気付く。何処に居たって。」
さっき一瞬見えた、崩れきったメイクに腫れた目。手でグシグシと顔を拭う後ろ姿は確かに、まったく速水奏らしくはねぇな。
でも、今だってちゃんと見付けただろ? まあ、手遅れなんじゃないかってくらい、遅くなっちゃったけどな。
「帰ってよ。仕事ならちゃんとやるから。」
「わかってる。奏はそういう女だよな。」
「もういいから。何処かへいって。」
「聞いてくれよ。」
「嫌っていってるの! もういいじゃない、貴方は去って、はじめからなにも無かったことになって……すっきりするでしょ。もう嫌なのよ、話したくないの。」
凍えそうな白い腕に触れたら、思いきり振り払われた。
徹底的に嫌われるかもな、けど、それならそれで仕方ねぇや。
「触らないで」
「やだ」
ちょっと強引に肩を抱いて、くるっとこっちを向かせて、抵抗される前に頬っぺたを両手ではさんだ。
「……離して、よ。」
「嫌だ。俺わがままなんだよ。おまえよりずっと。」
濡れた頬っぺたから伝わる火照りと、真っ赤な目の壊れそうなくらい綺麗な顔が。
めちゃくちゃに抱き締めたくなるくらい、愛しくなった。
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