過去ログ - 速水奏「ここで、キスして。」
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9:znAUHOH90 8[sage]
2017/04/05(水) 01:44:27.23 ID:znAUHOH90

一人の事務所で、タバコを手でもてあそんでいた。くわえてはみたものの火を付ける気にもならず、ゆびのなかでくるくると回してみたり、とんとんと机を叩いたりしていた。
天井を見上げたら、ソファの上からバイブレータの音がする。

「あいつ……」

奏の口の空いた学生鞄のなかに、ケータイが入りっぱなしにしてあった。あいつ、着の身着のままで出てったのか……間違っても、俺が言えた台詞じゃないが。

「ん……?」

ふと、気になってケータイを取り上げる。

「いつのだっけ、これ」

黒猫のストラップ。昔々に、奏にゲーセンで取ってやったもの。
確かあの時は、奏がアイドルに成り立ての頃で、あるレッスンのあと、妙に神妙だった奏を飯に誘って、結局そのあと遅くまで連れ回されたんだっけ。
聞いたら、伊吹にダンスのレッスンで水あけられて悔しかったんだってな。

『別に、練習に勝ち負けなんて無いし。次のステップアップの為の糧にしていければそれでいいじゃない。』

なんて、口尖らせながら言ってて、こういう面もあるんだな、って思った。
伊吹は伊吹で『少し教えたら覚え早くってさ、負けてられないよ!』なんて言ってたけど。
そう、自信満々で、堂々としてて、気高くて、なんでもそつなくこなしちまって。
でも背伸びしてて、負けず嫌いで、がんばり屋で、実はちょっと怖がりで、たまに癇癪も興して、いつも周りの期待に応えようとしていて。
最後の最後で自分のわがままを言えない、器用なくせに不器用な、そんな優しい子。

『キスと好きって、裏返しよ。心を伝えたくてするの。遊びじゃないのよ? ふふっ。』

普段冗談めかしてばかりの奏が、ふといつだったか、溢した一言。

「……あぁ。」

遊ばせていたタバコを、勢い余って握りつぶした。
俺は結局、自分の事しか見てなかった。あいつはいつも、俺のことを見ててくれてた。
この期に及んで逃げてたら、たぶん後悔するな、一生。
今更になって走るのも間抜けだし、だせぇけどよ。最低、よりちょっとはマシだろ?
あいつを傷つけたままにするくらいなら、カッコなんか付けるの、懲役モンだよな。
しゃあねえ、行くか。



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