12:znAUHOH90 11[sage]
2017/04/05(水) 02:05:17.40 ID:znAUHOH90
「……今更」
彼の胸におでこを押し付けながら呟く。彼の胸の中で反響した自分の声が、なんだか気恥ずかしい。
「ただのアイドルとしての好き、なんて言わないでよね。そういうこと言ったら、また泣いてやるから。」
泣いてないし、あなたの前じゃ絶対泣いたりしないから、なんて本当は意地を張りたかったけど。
彼がそっと肩に腕を回して包んでくれたら、そんな意地さえ、張るだけ無駄ね、なんて思えてしまった。
この包まれてる感覚。抗いがたいのね、こんなに。
「ごめん。不安にばかりさせたな。」
「本当よ。年上のくせに。」
柔らかい彼の声。顔は見えないけど、甘い顔をしているのがわかる。
なんだか少し悔しくて、彼のシャツを、きゅっと握ってみた。
……汗でびっしょりじゃない。車で来たはずなのに、そんなに焦ってたの?
それとも、緊張してたのかしら、あなたも。
本当、スマートなフリして、けっこう不器用なんだから。
そんなことですら嬉しく感じてしまう、私も私ね。
「もっと男らしい告白しなさいよ。俺がさらってやる、くらい言えないの?」
「ごめんな。」
「嫌と言ってる女の子に追いすがって。みっともな。」
「わかってる。でも、好きなんだ。かっこ悪くたってお前がほしい」
「ダメ。嘘つきだもの、あなた。」
あなたのしてくれることは、きっとなんでも嬉しくて。
冷めた目で観てた恋愛映画のヒロインのように、都合の良い女になってしまうことが目に見えてわかってるから。
今のうちに、言いたいことは言っておく。
「勝手に思い詰めて暴走しないこと。ホウレンソウは大人の基本。」
「……おっしゃる通りです。」
「あと他の女の子と話すのは、なるべく控える事……意外と嫉妬深いので。」
「それは、誓います。」
「本当かしら? 結構信用してないのよ、そこに関して。」
私だって貴方が夢見てくれてるほど、強くも良い女でもないわ。
寝起きではぼーっとしてて、流行りのお店でパンケーキを食べすぎちゃって。学校の課題に頭を痛めて、夜眠る前は、貴方を想うの。
何処にでもいると思うわ。
貴方に付いていこうと決めたのは、ほんの思い付きだった。ろくに希望もない毎日が、少しでも色づけばと思って。
初めてのステージの一週間前、不安だったのよ。言い訳の出来ない舞台の上で、私が、何も持たない取るに足らない存在なんだって、思い知らされるかもしれなかった。貴方はそんな私の不安はどこ吹く風で、私より私のことを信じてた。
貴方が信じてくれたから、私は私を信じられたの。
いつも全力を尽くしてくれる横顔に、大丈夫だって背中を押す笑顔に惹かれて、最高の私を、貴方にあげたいと思った。
それはとても自然で、確かなことよ。
22Res/33.00 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。