過去ログ - 【モバマス】白菊ほたる「総選挙。誰ひとりも、なにひとつも」
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名無しNIPPER
[saga]
2017/04/23(日) 20:14:42.93 ID:SscOnQKDO
誰かといっしょの私が好きって、そう思えるようになったんです。
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2
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/04/23(日) 20:17:58.02 ID:SscOnQKDO
4月も3分の2が終わって、日中はすっかり暖かくなりましたが、夜はまだ少し冷えます。
私は、街灯が照らす真っ暗な公園で、ひとりでベンチに座っていました。
私の膝上には、公園を包む暗闇とは正反対の、真っ白なルーズリーフが一枚。街灯に照らされる眩い純白と、私を嘲笑う、忌々しい薄青の罫線。
3
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/04/23(日) 20:19:24.34 ID:SscOnQKDO
コンビニ帰りでしょうか、ビニール袋を手に提げたジャージ姿のお兄さんが、私を横目でチラチラ見ながら横切りました。
好色な視線でもあり、不審者を見る油断ない瞳でもありました。既に、私のような若い女の子が、ひとりで出歩いて無事でいられる時間は過ぎていますから、当然です。
お兄さんは立ち止まることなく、面倒事を避けるように、足早に公園を出ていきました。そうして、真夜中の公園には、また私ひとりが取り残されます。
私と、私の苦悩を素知らぬフリで眼前に居座るルーズリーフ。
ため息が出ましたが、果たしてこれはいったい何に対する嘆息だったのでしょうか。
以下略
4
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/04/23(日) 20:20:38.68 ID:SscOnQKDO
プロダクション所属アイドル全員の順位を決める、"シンデレラガールズ総選挙"が開催中です。
ただでさえ華やかなアイドルたちが、この一年で自分がしてきた全ての集大成を見届けようと躍起になる、最も熱い季節です。派閥を作り、無所属の浮動票獲得のため声を張り上げ、魅力を高らかに主張する、数多のプロデューサーさん。誰もが"自分の娘こそ、頂点に相応しい"と信じて戦っています。
私のプロデューサーさんも、例年以上に気合いが入っています。
「今年の抱負。ほたるのファンに伝える用の、選挙への意気込み。とりあえず文章にしてきて。あとで俺と形を整えよう」
いつも通りのレッスンを終えて更衣室へ向かう私を呼び止め、プロデューサーさんは私に宿題を出しました。
以下略
5
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/04/23(日) 20:21:50.13 ID:SscOnQKDO
ユニットの友達や、プロデューサーさん、スタッフさんに監督さんにカメラマンさん。あらゆる人との会話において、私は無意識的に……ああ、勝手に誰かがやったような物言いは止めましょう、責任転嫁です……。
私は意識的に、総選挙の話題を避けていました。
その話になると、明後日の方向を向いたり、何か別のことを考えるフリをしたり、別の話題を出したり、はぐらかしたり。あらゆる手段で、私の口から「総選挙」の言葉を出さないようにしてきました。
口に乗せたら、本当に始まってしまう気がして。
口に出さなければ、無関係でいられると信じて。
以下略
6
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/04/23(日) 20:23:07.07 ID:SscOnQKDO
去年はどうだったか?
自分の力量をはかり、さらなるステップアップが望める、またとない機会です。私が目指すものはトップアイドル。勝ち負けや順位付けは、以降の私の人生で何度も経験することになるでしょうし、そういう意味でも経験値です。
断る理由はありませんでした。気概も十分でした。
今までも。これからも。
7
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/04/23(日) 20:25:14.92 ID:SscOnQKDO
「総選挙、頑張ろうね」
ユニットの仲間が言った言葉が甦ります。
ドラマの撮影の休憩時間、お弁当を食べながら、なんの気なしに言った、ただの世間話のていでした。
「負けないから」
ライバルに宣戦布告するそれ、頼もしさを感じさせる瞳の輝きに、去年の私はきっと、ぎらついた眼差しを返して拳を合わせていたことでしょう。
以下略
8
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/04/23(日) 20:26:36.52 ID:SscOnQKDO
自分を追い込むために、ルーズリーフを買いました。
30枚入り、600円。
店員さんに、覚悟のないことを笑われた心地でした。
それからずっと、罫線に嘲笑され続けています。
9
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/04/23(日) 20:29:04.28 ID:SscOnQKDO
「どんなに不幸でも、トップアイドルに……!」
あの日の私が、プロデューサーさんにしがみついて叫ぶ私が、夢に出てきました。
その必死でみっともない姿は浅ましさと、底知れない欲深さ、自分自身の運命への怒り、夢への嫉妬、あらゆるネガティブでハングリーな感情をぶつけてきます。
私がこちらを見ました。
「腑抜けないで」
以下略
10
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/04/23(日) 20:30:11.04 ID:SscOnQKDO
以前の事務所で、仕事を奪ったことがあります。
もともとその仕事をする予定だった人にとってはラストチャンスで、渋滞というどうしようもなく突発的で個人にはどうにもならない事情さえなければ、彼女は今頃、私の隣にいたかもしれません。
「あなたの行き先、見てるから」
ロッカーの荷物をまとめた彼女は、呆けたように突っ立った私の頭をくしゃりと一撫でして、以後二度と会うことはありませんでした。
11
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/04/23(日) 20:30:53.36 ID:SscOnQKDO
人の幸せとはなんなのでしょうか?
私にそれを語る資格はあるのでしょうか?
私はあの日感じた幸福を忘れずに生きていますか?
12
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/04/23(日) 20:31:57.14 ID:SscOnQKDO
はじめて今の事務所でライブをさせていただいた夜、私はこの公園にいました。
ライブ後の疲れ果てた身体に鞭打って、その日のライブの反省点を洗い出し、反復して踊り直し、掠れる喉で歌詞をなぞりました。
以下略
13
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/04/23(日) 20:34:28.05 ID:SscOnQKDO
気がつけば私は、その日の動きを繰り返していました。
横ステップ、腕を客席に伸ばす、祈るように手を合わせる、その場で回転、ひらひらと腕を舞わす、コール・アンド・レスポンス。
ルーズリーフはベンチに置き、重石も乗せず。
横ステップ、腕を客席に伸ばす、祈るように手を合わせる、その場で回転、ひらひらと腕を舞わす、コール・アンド・レスポンス。
何故、こんなにも焦っているのでしょうか、私は。
以下略
14
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/04/23(日) 20:35:10.82 ID:SscOnQKDO
「誰かといっしょの私が好きって、そう思えるようになったんです」
15
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/04/23(日) 20:36:17.47 ID:SscOnQKDO
勝ち負けも、優劣も、そうして沈んでいく芽も、添え物にしかなれない小道具も、ただひとつ頂点で微笑む女王も、競い合う友達も、夢、願い、私の行き先。
"シンデレラガールズ総選挙"、開催中です。
人の幸せとはなんなのでしょうか?
私にそれを語る資格はあるのでしょうか?
私はあの日感じた幸福を忘れずに生きていますか?
16
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/04/23(日) 20:37:09.21 ID:SscOnQKDO
「そういや、この公園で、ほたるをスカウトしたんだったな」
ルーズリーフはプロデューサーさんに預けました。
結局一文字も書けずに。
「覚えてるか?」
「はい」
以下略
17
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/04/23(日) 20:39:37.09 ID:SscOnQKDO
「やめるか、選挙」
その、
言葉に、ドクン、
と、心臓の、音、が。
音が跳ねました。
以下略
18
:
名無しNIPPER
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2017/04/23(日) 20:40:59.49 ID:SscOnQKDO
「私はマイナスです」
みんなには何かがある。
特技、夢、目指したい何か、自分を表現する手段。
私は不幸です。
憐れみを乞うしかない、マイナス。
以下略
19
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/04/23(日) 20:41:42.40 ID:SscOnQKDO
誰かといっしょの私が好きって、そう思えるようになったんです。
いっしょにいられる私が幸せって。
不幸の見方を変えることを教えてくれて。
一歩を見守ってくれてて。
いっしょに泣いたり、笑ったり。
以下略
20
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/04/23(日) 20:43:07.96 ID:SscOnQKDO
勝ち負けも、優劣も、そうして沈んでいく芽も、添え物にしかなれない小道具も、ただひとつ頂点で微笑む女王も、競い合う友達も、夢、願い、私の行き先。
あの日見た、夢の先。
今私が見てるのは、同じものなのでしょうか?
21
:
名無しNIPPER
[saga]
2017/04/23(日) 20:45:00.68 ID:SscOnQKDO
「逆に、なんで行けないと思う?」
「明日を信じられるようになったのは最近で……それに、頂点はひとつしかないですから……」
今の私と、昔の私。
どっちも強くて、だから引き裂かれそうで。
蹴落としたくない。
以下略
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