過去ログ - 【モバマス】岡崎泰葉「あなたが示してくれたもの」
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2: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:27:10.42 ID:++9plA0Wo
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

 撮影スタジオに入ると、私は撮影スタッフのみなさんに挨拶してまわる。
 本当はひとりひとりに挨拶していきたいところだけど、準備に忙しくするスタッフさんたちの邪魔をするわけにはいかない。ひとかたまりになっているところに挨拶をしていった。

以下略



3: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:28:05.45 ID:++9plA0Wo
 撮影が始まると、アイドル部門のプロデューサーのことは頭の中から追い出される。
 代わりに脳内を締めるのは撮影のことだ。
 求められている絵。自分がどうファインダーに映っているのか。印刷されたカットがどう目に映るのか。
 指示されたポーズを完璧にこなし、指示される前に表情を作る。

以下略



4: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:28:42.85 ID:++9plA0Wo
「お疲れ様でした」

 撮影はいつものように何事もなく終わった。私はスタッフさんたちに声をかけてまわる。
 するとさっきのプロデューサーさんが、まだ同じ場所に立っているのを見つけた。
 てっきり、最初だけ見学して帰るものだと思っていた。それなりに忙しいだろうに、わざわざ最後まで見学していたのか。
以下略



5: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:29:29.32 ID:++9plA0Wo
「私が、ですか?」

 思わず声を荒げそうになる。それは、あなたが、なのではないか、と言い返したくなるような表情だった。
 いつもしているように笑みを作る。

以下略



6: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:30:05.15 ID:++9plA0Wo
「楽しみたくはない?」

 ああ、なるほど。この人は若いんだ。
 私は一番の笑顔を作る。今度は作ったものだとちゃんと伝わるように。

以下略



7: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:30:57.81 ID:++9plA0Wo
「夢が見られるような甘い場所じゃありませんし、やりたいことをできることなんてないんです」

 この世界は夢があるのかもしれない。
 だけど、私たちはそれを見せる側だ。誰も彼もがやりたいことをやりたいだけやっていたらめちゃくちゃになってしまう。
 この世界は決して、華やかなだけじゃない。
以下略



8: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:32:01.97 ID:++9plA0Wo
 心の中の反論は口には出さない。私がプロデューサーさんに見せたのは笑顔だけ。

「具体的に、何が言いたいのかわかりません。次のスケジュールがありますから、失礼します」

 私はプロデューサーさんに頭を下げ、その場を後にする。
以下略



9: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:32:40.98 ID:++9plA0Wo
 お風呂から上がった私は丁寧に髪を乾かし、柔軟のストレッチをした。
 いつもなら仕事の反省や、次の内容などを考えるのだけど、今日は撮影を見学しにきていたあのプロデューサーさんのことばかりが頭に浮かんだ。
 考えれば考えるほど頭に血が昇りそうになる。
 なるべく考えないようにしても、ちょっとした思考の隙間に入り込んでくる。

以下略



10: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:34:02.33 ID:++9plA0Wo
「あの人はまだ若いから……」

 もう何度目になるかわからない結論に行き着いて、それでも私の手は手鏡の柄を硬く握ったままだった。
 どうしてこんなに心がささくれ立つのだろう。
 そんなことわかりきっている。
以下略



11: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:34:45.73 ID:++9plA0Wo
 仕事が楽しいと思えなくなったのはいつからだろう。
 学校が終わり、バスと電車を乗り継いで事務所に向かう時間。普段なら教科書や参考書を広げ、勉強する時間だ。
 だけど、今日は教科書を広げただけで、私の意識は他のところに向いていた。

 仕事を楽しめなくなったのは、モデル部門に移る前だった。
以下略



12: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:35:22.19 ID:++9plA0Wo
 電車が目的の駅に到着する。教科書は開いたところから一ページも動いていなかった。それなのに、インプットされたみたいに私の意識がここが降りる駅だと告げてくる。
 電車を降りる人の波に従いながら、出しただけの教科書を鞄にしまった。
 ホームはすっかり夕焼け色に染まっている。地下を通ってきたわけでもないのに、電車に乗ったときの空の色との変化に私は驚いてしまった。

 今日は仕事が入っているというわけではなかった。それでも私はなるべく事務所に顔を出すようにしている。子役をやっていた頃からの癖なのかもしれない。
以下略



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