1:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/10(月) 22:05:41.58 ID:LyknWSHb0
日が暮れかかる。
「お疲れ様です」
彼らは彼女たちと別れるときだが、おれには担当する女がいない。
おれは女と女との間の狭い割目をゆっくり歩き続ける。
ここにはこんなにたくさんの女がいるのに、おれの女が一人もいないのは何故だろう?
……と、何万遍かの疑問を、また繰り返しながら。
「おつかれー」
デスクを見ると、そこにはいくつもの封筒やひもの切れ端なんかが落ちていて、おれは首をくくりたくなった。
ひもは横目でおれを睨みながら、プロデューサー、休もうよ。
まったくおれも休みたい。
だが休めないんだ。
おれはプロデューサーだし、それにまだおれの女がいないのか納得のゆく理由がつかめないんだ。
「お疲れ様」
仕事は毎日やってくる。
仕事があるならプロデュースしなくちゃならない。
プロデュースするというなら女が要る。
そんならおれの女がいないわけがないじゃないか。
「さようなら」
ふと思いつく。
もしかしておれは何か重大な思い違いをしているのかもしれない。
女がいないのではなく、単に忘れてしまっただけなのかもしれない。
例えば……と、偶然そこにいた女の前で足を止め、彼女がおれの女かもしれないじゃないか。
無論ほかの女と比べて、特にそういう可能性をにおわせる特徴があるわけではないが、それはどの女についても同じだ。
またそれは、おれの女であることを否定する何の証拠にもなりえない。
勇気を奮って、さあ、話しかけよう。
親切そうな女の顔。おれも笑って紳士のように挨拶した。
「ちょっといいかな。きみはおれの担当じゃあないかな?」
女の顔が急にこわばる。
「あら、どこのプロデューサー/さんでしょう?」
おれは、はたと、なんと説明すべきかわからなくなる。
おれが誰であるのか、そんなことはこの際問題ではないことを彼女にどう納得させるべきか。
おれはやけになって、
「ともかく、きみがおれの担当でないということなら、それを証明してほしいんだ」
「あら……」
と、女の顔がおびえる。
癪にさわる。
「証拠がないなら、おれの担当だと思っていいんだよね」
「でも、私は、——の担当です」
「それが何だというんだい? 彼/女の担当だからって、おれの担当でないとは限らない。そうだろ?」
返事のかわりに、女の顔が写真に変わった。
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