472:名無しNIPPER[sage saga]
2018/03/05(月) 00:07:18.04 ID:IPOjTJqEo
「うっ……ふ、うっ……!」
テレビの横で砕け散り、形を保つことが出来なくなったグラスの残骸。
今だ、そこに存在し続けるテレビ。
そのどちらが彼女のスイッチになったのかは、私にはわからない。
「ガラス製品を壊すのは、やめよう」
怪我をしてしまうといけない、と、そう彼女に言う。
以前、同じことを強い口調で言いはした。
だが、それを聞いた彼女はその場にあった食器を全て床に叩きつけ、破壊した。
それがあってから全て食器はプラスチック製にしていたのだが、
確か、あのグラスは結婚式の引き出物で仕舞っておいたものだろう。
思い出の品だったが、彼女に怪我が無かっただけ、良しとする。
「……貴方は」
ゆらりと、まるでホラー映画のゾンビの様な緩慢な動き。
おっとりとした性格の割にテキパキと動いていた頃とは、比べるまでもない。
涙と鼻水でグシャグシャになった顔。
酒で口の周りは汚れ、形の良い唇は、ワナワナと震えている。
「っ!」
眉間に皺を寄せ、怒りを露わにする彼女。
充血した目で真っすぐに私を睨みつけ、手を振り払われた。
私に触れられているのが、不愉快だと言わんばかりのその行動。
置き場を失くした手が、宙を彷徨う。
「貴方は、なんでそんなに平気そうなんですか!?」
見たことの無い、怒りの表情。
美しさとは程遠い、この世の全てを憎むかのような声。
「あの子達が、もう居ないのに!」
そう言うと、彼女はまた顔をクシャリと歪め、机に突っ伏し、泣いた。
私たちは、息子と娘を事故で亡くしていた。
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