59: ◆mZYQsYPte.[saga sage]
2016/06/30(木) 22:01:03.41 ID:GUujIImdo
私が顔を上げると、そこには大妖精と呼ばれる存在が呆然と佇んでいた。
深海棲艦という巨大な組織を作り上げ、動かし続け、自らの敵と戦い続けた偉大な存在が『呆然と佇んでいる』……つまり無気力な姿を曝け出していると感じたのはこれが初めてのことだった。
空母棲姫「……お父様、御具合がよろしくないのですか」
大妖精「違うよ」
空母棲姫「ですが、これほど憔悴して」
大妖精「八位、お前はいつも私と目を合わせてくれなかった。……きっとそのせいで気付かなかっただけだ」
空母棲姫「……」
今度は私が沈黙する番だった。いつもは恐ろしくて目を合わせられる筈もない。お父様とは、大妖精とはそのような存在であったし、そうあるべきではないのか。
大妖精「お前の手で包んでくれ」
空母棲姫「……」スッ
忠誠を示す時の要領で目の前の妖精を手のひらの中へ包み込む。小さなその身体は半分以上が私の手の中に収まってしまう。
大妖精「小さいだろう」
空母棲姫「……いえ」
大妖精「目を逸らすな。私の目を見るんだ」
空母棲姫「……」
大妖精「私の身体は小さいだろう」
空母棲姫「……はい」
圧力に負け思わず失礼なことを……本当のことを言ってしまった。だが……。
大妖精「……これが私だ」
手の中の妖精は私の言葉に安堵したかのような表情を浮かべた。
その表情を見た時、胸騒ぎがした。今からこの方はとても恐ろしいことを言う。
そんな予感だけで自分の身体が芯から震え始めるのが分かった。
大妖精「人を滅ぼすために私は戦い続けてきた。そのためには強い指導者が必要だった」
やめて
大妖精「だから私は強い指導者になった。……自分自身の意思を無視しながら」
空母棲姫「……やめて下さい」
大妖精「戦いの中で私は大義の求める『役柄』に取り憑かれ一人の演者と成り果てた。……もっと酷いか。道化の演者が最後には本当の道化になっていた」
空母棲姫「……」
大妖精「……手が震えているぞ」
空母棲姫「も、もうおやめ下さい。お願いです。早くいつものお父様に戻って下さい……」
こんな情けない言葉が自分から出るものなのか。
手は震え、目を合わせてはいるが視界も乱れ定かではない。それなのに私の耳は妖精の声を私の脳へ届け続ける。
大妖精「私は扉を開かない。魂の領域への侵犯は因果律への挑戦に等しい」
空母棲姫「……お姉様は」
大妖精「……堪えてくれ。私も会いたい。だが……娘たちは私の手の届かないところへ行ってしまったのだ」
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