茄子「おやすみなさい、プロデューサー」
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11:名無しNIPPER[saga]
2016/07/03(日) 00:47:14.46 ID:1a597gsV0

文香
「……ところで、Pさんは、胡蝶の夢というお話を御存知でしょうか。

 荘子という中国の思想家の説話の一つで、『私は蝶になった夢を見た。しばらく自由に飛びまわっていたが、ふと目が覚めた。果たして私は蝶の夢を見ていたのか、それとも私が蝶の見ている夢なのか』――というものです。

 これは荘子の思想を説いたものですが、それとは別に、夢とうつつのあいまいな境界、ひいては私たちが観測している事象の不確実さを捉えたものとしても受け取ることができます。

 ……そうですね。もしかしたら、この私はPさんが見ている夢なのかもしれません。

 そしてあなたがここにいるという現実も、私の願望が生み出した幻なのかもしれません。

 Pさんがいなくなってから……時々、夢を見たという話を皆さんから聞くことがあります。

 Pさんと知らない場所で買い物をしていたとか……ライブの打ち上げにPさんが現れて、自分はひどく驚いているのに、周りの人はそれが当たり前のことであるかのように振る舞っていて……Pさんが辞めたのは夢だったんだと信じたところで目が覚める、とか……

 ええ。私も、悪い夢を見ました……Pさんがある日突然、いなくなってしまう夢です。

 事務所で凛さんや未央さんがひどく取り乱していて……それを慰める卯月さんの笑顔が、妙に記憶に残っています。

 それから数日して、事務所から少し離れたマンションで火事が起きたんです。

 被害者は二名で……亡くなったのはPさんと、志希さんで……遺体の状況から、二人は無理心中をしたという報道でした……

 ……どうしたんですか、Pさん。ひどく汗をかいているようですが……そういえば、さきほどおっしゃいましたよね、Pさん。

 志希さんと、プロメテウスの火がどうとか……さっきはなんでもないなどと、まるでなにかを隠すようにかぶりを振っていましたが……やはり、そういうことなんですね?

 とても興味深いです。Pさんが、私が見た夢を体験しているなんて……

 そうなると……Pさんが何も覚えていないのもうなずけます。

 あなたは志希さんと共に息絶えて、いまここで目覚めた……事実は小説よりも奇なりといいますし、これはきっと蝶が見ている夢なのでしょう……。

 ……だとすると、私とあなたのどちらが蝶なのでしょう……そういえば、私が見たあの夢の続きがここにいるPさんだとすれば……私が知っていたPさんは、どこへ行ったのでしょうか。心当たりはありませんか?

 ……見当もつかない、と。本当ですか? あなたは、あの人と同じ目をしています……どうしようもない自己嫌悪と、深い深い絶望が溶け合った目。

 きっとあなたも、灰被りのうちの誰かを抱いたのですよね……?」



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