茄子「おやすみなさい、プロデューサー」
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12:名無しNIPPER[saga]
2016/07/03(日) 00:49:08.15 ID:1a597gsV0

文香
「そうです……私はあの人に抱かれました。だって仕方がないではありませんか……あの人は私の世界を広げてくれた。

 私では届かない扉を開いて、かつて見たことのない景色を見せてくれた。

 私という物語は極彩色のページを得たのです。無償の愛。滅私の奉仕。揺らがない信頼と期待。

 ……愛するなというほうが無理な話です。私たちは一つにとろけて、魂で繋がりました。

 ……この上ない幸福でした。ただ呼吸するだけでこの上ない充足感で胸が満ちるのです。

 しかしあの人は姿を消しました。子供が出来たかも知れないと告げた私を、あれほど強く抱きしめてくれたというのに……どこかへ逃げたのです。

 ええ、ですからあの人から連絡があった時は驚きました。しかも助けてくれなどと……どの口が言えたのでしょう。

 本当のことを言えば……Pさんを匿ったのは、助けるためではありませんでした……ここですべてを終わらせるためだったのです。

 Pさんを殺して、あの世で私たちの子供に償いをしてもらうつもりでした……ですがプロデューサーさんは、私を捨てたあの人とは違うようです。

 私があのころのように名前で呼んでも、あなたの目に私への罪悪感が浮かぶ様子はないので。

 ……そうなると、これは多世界解釈なのでしょうか。あなたは並行世界からやってきて、この世界のPさんと入れ替わったのかもしれませんね。しかしそうなると……一つだけ問題が残ってしまいます。

 …………言ったではありませんか、Pさんを匿ったと。

 すべてに因果があるのですから、この世界のPさんには……一度捨てた女を頼らなければならないほどの、なにかがあったということです。

 もっとも……その何かは容易に想像できますが。私を孕ませて、都合が悪くなれば逃げるような人ですから……私以外の誰かに追われているのでしょう。

 ……いえ。これが夢だとするなら、初めからPさんなどいなかったのかもしれません。

 指を絡ませて混じり合ったあの夜も……失ってしまったあの子も……すべては私という蝶が見た……泡沫の夢だったのやも……くすくす。

 …………? ……何やら、物音がしますね。耳をすませてください。

 聞こえませんか? 夜の静けさと、古書の匂いが漂うこの空間に、わずかに響く小さな金属音……。

 扉の方からです。施錠はしましたが、なにぶん古い鍵ですので……ああ、やっぱりすぐ開けられてしまいましたか……。

 ……おや、驚きました。これは意外なお客様ですね……こんばんは、まゆさん。いい夜ですね」



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