一ノ瀬志希「あたしとキミのイケないセカイ」
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7: ◆Freege5emM[saga]
2016/09/19(月) 23:57:48.57 ID:YmRrF0g1o

●1-06

あたしの自宅兼ラボの近所って、深夜は滅多に車が通らない。
そこに、そろりそろりと控えめなエンジン音がさざなみを立て始めると、
あたしは椅子を蹴倒して、玄関まで勇躍する。

プロデューサーが、ドア越しにあたしの名前を呼ぶ。
あたしは持ち歌のメロディを口ずさむ。



――聞こえてるのに、聞こえないフリ。

もう一回、プロデューサーの声が聞こえる。
あたし、電気つけっぱなしでしょ? だから、キミはもう気づいてる。

――何回だって、呼んで欲しいのよ。

今、ドアを開けたら、あたしはナニを言われちゃうだろう。
少なくとも甘くはないだろうね。

――ホントはもっと胸キュンセリフ……



いやいや、違うよ。
そこは、歌詞通りじゃない。

あたしは甘くないのが嬉しいの。



「……ねぇ、プロデューサー。キミが教えてくれたコトなんだけどさ」

ごめんね、プロデューサー。
あたし、キミにお説教されてる時、いっつもニヤニヤしてたと思う。

あたしを諭してくれるコト自体が嬉しかった。

今夜もそうだ。
キミをあたしのラボまで呼び寄せるコトがあたしの目的で、
キミがあたしに直接ナニか伝えるためここまで来てくれたコトがあたしの喜びなんだ。

「ヒトのココロをつかむのって、難しいよね。あたしが本気でやっても、そー思えるくらい」



失踪してプロデューサーに手を焼かせたりしたけど、あたしは本気でアイドルをやってた。
本気でやってもいいとココロの底から思ってた。

「信じてくれる……? あたし、本気だったんだよ」

シンデレラガールを発表する会場で、ドラムロールに乗せられたスポットライトが、
周子ちゃんを捉えて止まった刹那、あたしは眩しくて彼女を見られなかった。
目を背けたら、となりに座っていた夕美ちゃんと目が合った。

「夕美ちゃんは、ニッコリ笑って、周子ちゃんにおめでとうって言ってたね……すごいなぁ」

あたしは、拍手しようと思って、両手を胸元まで引っ張り上げるのが精一杯だった。



「……くやしい、よぉ……」

あたしは、周子ちゃんと同じ部屋の中にはいられなかった。

「……なんで、あたしじゃなかったの……?」






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