モバP「そうして俺は心配するのを止め高垣楓を愛するようになった」
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◆agif0ROmyg
[saga]
2017/01/13(金) 22:21:42.01 ID:m+LHJ2JO0
それ以来、事務所にいて心が休まる日はろくに無かった。
楓さんはひっきりなしに俺を誘うが、行ったらまた罪を重ねることになるのは間違いない。
せいぜい昼間に相手をしてやるくらいしかできない。
もう完全に俺を手に入れたつもりでいるのか、事務所の中でも外でも自然と隣にいようとするものだから、ごまかすのが大変だ。
こういう時、外回りのある職業でよかったと思う。
楓さんにはレッスンを言いつけて、資料作成や企画立案を手早く済ませて、何やかやと理由をつけて戻ってくるであろう彼女と鉢合わせないように、逃げるように営業に出る。
外回りと言っても、担当しているのはあの高垣楓。
かつてのように必死に駆けずり回らずとも仕事はある。
それでもこうして外へ出て顔をつなごうとする俺のことを、同僚や上司は「マメな男だ」なんて評価してくれているらしいが。
そんな評価も、今は重荷にしかならない。
テレビ局やラジオ局を回って打ち合わせなどを済ませて、帰路につく頃にはもう足が重い。
まだ、楓さんとしたのはあの一回だけだが。
彼女の様子だと、このままフェードアウトできる可能性は全く無いだろう。
もちろん俺とて一人の男、あの高垣楓が欲しくないわけがない。
しかしプロデューサーとして彼女をトップアイドルに導きたいという気持ちも、もちろんあるのだ。
相反する想いをどうすれば良いのか、全く見当がつかない。
アンビバレンスの中にいるのがこんなに苦しいとは、かつて想像したことも無かった。
楓さんがアイドルでさえなければ何の問題もないのに、なんて考えてしまって、プロデューサー失格ものだと頭を振る。
が、無い頭をいくらぶんぶんしたところで名案など出てくるはずもない。
そんな鬱屈を抱えて道路を歩いていた時。
ふと、道の端でうずくまる女性を見つけた。
苦しそうにしているその女性は、やや長い髪を後で一つにくくっている。
声をかけてみると、どうやらハイヒールの踵が折れてしまったとのこと。
歩きにくくて困っているようだったので、持ち合わせていた接着剤で応急処置を施した。
楓さんはしばしばヒールの高い靴を履くが、足元が迂闊になることも多い。
そんな彼女と一緒に外出するときに備えて持っていたものだが、こういう場面で役に立つとはね。
手早く修理しながら軽く言葉を交わす。
いかにも内気で大人しそうな、控えめな印象の女性だが、こうしてみるとなかなかの美人だ。
表情が沈み気味で口調も物憂げなせいもあって、華やかな感じではないが、磨けば光るかもしれない。
何より、縋りたい相手に見捨てられたかのような、儚い感じが放っておけない。
靴を履き直して礼とともに立ち去ろうとする彼女を呼び止めた。
「アイドルに興味はありませんか」
そう言ったのは、今のこのどうにもならない状況から抜け出したいという、ある種捨鉢な感情のためでもあったが。
目の前のこの、今にも折れそうな雰囲気の女性を立派なアイドルにしてみたいという職業意識も、また否定し難かった。
誘いの言葉と差し出した名刺に、彼女は不審そうな様子を隠しきれていなかった。
しかし、俺とてプロデューサー。ここでむざむざ原石を逃す訳にはいかない。
なんとか言葉を重ねて、事務所にほど近い喫茶店に引き込んで話をすることができた。
いきなり事務所に招き入れず、このような公共の空間を使ったのが功を奏してか、女性は少しずつ心を開いてきてくれる。
アイドルの仕事、その意義、その素晴らしさ、そして才能。
もろもろについて熱く語ってしまったのは、裏切りへの代償行為だったろうか。
ともかく、まるで新人のように熱烈に話したのが良かったか、女性はアイドルに興味を示してくれたようだった。
ちょうどいい、今日もレッスンしている娘達がいる、良ければ一緒に見に行きませんか。
そんなふうに話がまとまりかけて、二人で席を立った時。
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