勇者「幼馴染がすごくウザい件」
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82: ◆y7//w4A.QY[sage]
2017/03/25(土) 23:50:03.15 ID:FmZTuUXi0
金切り声をあげて、あきらかに苛立ちを含んでいた。俺はといえば、恐ろしくて身体が硬直していた。小便漏らしてないだけたいしたもんだね。

トモエ「勇者にこんなこと言っても無駄ね。私を慰めものにするつもりもない。そうでしょ? 私を純粋にほしいのね……」

別段驚いた様子はなく、何も言わない俺を呆れ半分という感じで、苦笑で返していた。また、妙な成り行きである。とにかく、ここは機嫌を損ねないのが大事だ。怒ってる人に否定をしちゃいけない。ゆっくりと頷いた。

トモエ「サキュバスをほしいだなんて、瞳の力がなく言ったのはあなたがはじめて」

淡々とトモエは続ける。

トモエ「わかった。あなたを我が王と認める。今後はマイマスターと呼ぶわ」
ベニ「魔王はどうするつもり?」

厳しい声で質問を投げかけるとトモエは眉を釣りあげた。

トモエ「……あら、まだいたの」
ベニ「ここから動けないから、いる。魔王もあなたの王だよね?」
トモエ「魔王さまは私が好きで従っていただけよ。そのカリスマ性にね。魂が屈服して従っていたわけじゃなかった」
ベニ「魔王って、まさか、女?」
トモエ「察しがいい。その通り、だから私の魂はまだ無垢なままだった。でも、それも過去の話、これからはマスターに身も心もささげる。サキュバスはね、性に奔放だけど、それは主人が現れるまでの話なの魂に刻まれれば、一途でもある」

パチン、と指を鳴らすとベニとミラの石化が解けた。

ミラ「あ……」
トモエ「ほら、解いたわよ。雑魚でも我がマスターの糧になりなさい」

ちょっと待て。今なんつったこいつ。茫然として、開いた口がふさがらなかったが、まずはひとつずつ、疑問を整理しなければならない。何から尋ねるべきか、しばらく迷ってから、言った。

カケル「魔王には?」
トモエ「元々、私たちは弱肉強食の世界。弱いものは淘汰され、強いものが生き残る。あぁ、人間のように陰湿ややり方はしないわよ? 勇者に負けて従うのなら、それで納得されるわ。いえ、むしろそれほどならと喜ぶかも」
カケル「どういうことだ?」
トモエ「マスターは間違いなく、歴代最強の勇者だもの。魔王さま、いえ、魔王は、暇つぶしに飽きて、好敵手の登場を心待ちにしているのよ」

うわぁ、なにそれ。

トモエ「でも、私も一度魔王城に帰る必要がある。残ってる仕事があるから」

ちょ、ちょ! いなくなるの⁉︎ それじゃ意味ないじゃん!心の揺れ動きようなど知らずにトモエは、改めて俺を見上げる格好で顎に手を添えた。

トモエ「うふふ、心配そうな顔をしないで。危険なことはなにもないから」

俺は自分の身の安全を心配しとるんじゃい!

トモエ「でも、そうね。私の覚悟を、サキュバスに種つけした意味を知ってもらうためにはこれじゃ足りない。そこを動かないで」
ミラ「な、なにする……っ!」
トモエ「儀式に近づくなっ!」

駆け寄ろうとしたミラにトモエのけたたましい喝が炸裂する。言葉に力をのせたのか、ミラはその場に直立不動のままビーン、と立ち止まった。もちろん俺も。

トモエ「命に息吹を。生命に力を」

すると、トモエから光があふれ、髪が輝きだしていた。
われわれは神の名の下に平等なのだ。
さあ、互いに手をとり、よろこびの園へと進もう。
呟くような声で、静かに言葉を紡ぐ。これは、どこかで聴いたことがある。精霊神をたたえる賛美歌だ。

ベニ「その呪文はっ!」

唐突に慌てはじめたベニが割りこむ隙間もなく、トモエの髪は白銀になり、瞳は紫から澄んだ色をした金色へと変化していた。もはや、これは魔ではない、あきらかに神聖な儀式のような雰囲気がある。


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