モバP「南条光の正体がサキュバスだった」
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5:名無しNIPPER[saga]
2017/04/21(金) 19:20:45.82 ID:dh2cKL/j0

 かくして約束をしたのはいいが、順風満帆かと言えばさもあらず。

 二ヶ月ほど期間を過ぎた頃には、大きな問題が露呈していた。

 光はサキュバスであるにもかかわらず、男の目をまるで意識しないのだ。

「ワン、ツースリー、フォー、たん、たん、たた、たんっ♪」

 たとえば、レッスンの最中などがそう。

 元気よく振られるぷにぷにした二の腕と、脇へ滴る珠の汗。

 レッスン着の隙間から垣間見える、体格の割にふっくらと実った谷間。

 無駄な肉が一切無い綺麗な脚と、子鹿を思わせる踝が形作る愛らしい曲線。

 誰に媚びるということもしない光は、それらに向けられる視線を一切気にしていなかった。

 約束通り光が人を襲いそうな傾向に注意を払っているのだが、率直に言って目に毒だ。

 呼吸が荒くなったり、肌が真っ赤に火照っていたりなど――レッスン後には見慣れていた光景が、酷く妖しく映ってしまう。

 もちろんその多くはただの疲弊で、監視が的外れだったことの方が多い。

 が、およそ七回に一度ほどの頻度で、本当に発情寸前だったこともあった。

 淫気に警戒する生活が続いてからというもの、何気ない所作ですら気になって仕方ない。

 最初は新たな魅力を見つけられて喜びもしたが、長期間こんな姿を見せられて、今では悶々とした感情が勝っている。

「へへっ、ダンスクリアっ!
 なぁ、何処か改善点とか無かったかな、プロデューサーさんっ!」

 そう俺が悶えてる間に、光は練習を終えた。

「指先に視線を集めさせて、そこからマイク、口元に誘導させるのに気を配ってるみたいだな。
 この完成度なら……来月のLIVEには完成していそうだ。
 指摘される前に自分からそれを始めるなんて、大した奴だよ、お前は」

「おおっ、気づいてくれたのか、ありがとう! ふっふっふっ、進行も順調ぉー♪」

 上機嫌に鼻歌を歌って、光が少年みたいに破顔する。

 LIVEや写真集で見る笑顔よりも魅力的なそれは、この前の出来事が悪い嘘であったと思わせるほど爽快で軽やか。

 こんな少女に自分は何を見ているのだと思うと、息も苦しいほどに喉が詰まる。

 鉛のように重い後ろめたさに蝕まれてると、不意に光が身構えた。

「いつも見守ってくれて、ちょっとしたことにも気づいてくれて……
 アタシの相棒役はもう、プロデューサーさんしか考えられないな! とぉっ!」

 小柄な五体に似つかわしくないバネで跳ね、ぴょん、と胸元に抱きついてきた。

 慌てて受け止め、共倒れにならぬよう踏ん張ってみると、胸板にむにゅっと柔い感触。

 ゴム鞠を思わせる若々しい弾力を、スーツ越しにはっきりと感じた。

「! 急に飛びつかないでくれ、危ないだろう。
 それより、シャワーを浴びたらどうだ。あれだけ踊ったんだし、汗が気にならないのか」

「あ、それもそうだな。じゃあ行ってくる!
 次はもっといいパフォーマンスを見せることを約束するからね! それじゃっ!」

 そう言って俺からぱっと飛び退き、荷物を片づけてレッスンルームを退出した。

 跡には汗の残り香が置いてけぼりで、なるべく嗅がないよう心がける。

 が、息すれば否応なく肺に流れて、シャンプーと汗が混じった少女らしい甘酸っぱさが、鼻腔をじんじんと麻痺させた。

 視界が霞がかかってきて心拍が騒いで、こうなるのも今日が初めてじゃない。

 事務室に戻って業務に手を着けたが、朦朧として遅々として進まない。

 限界だ、こんな状態から早く逃げたい――手近な写真集を掴み、休憩時間にトイレに駆け込む。

 便座に腰掛けて開いたページは、悪い偶然にも、自信気に親指を突き立てた水着の光。

 脳芯がかっと茹だるような錯覚と共に何も考えられなくなって、反射的にそのグラビアで処理してしまった。

 宗教絵画を安ペンキで汚損するような罪悪感が胸中で渦巻き、立つことも出来ずしばらく座り込んだ。


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