33: ◆JfOiQcbfj2[saga]
2017/05/07(日) 01:33:56.76 ID:upUN87ha0
「はぁ、本当情けない。なんて謝ればいいんすか、これ……」
女子寮の廊下をトボトボ歩きながらため息を何度もついていた。
「いくら夢中だからってキスマーク残すって……いやいやいやありえないでしょ」
手にはとりあえずここに来るまでにあるそれなりに有名なお菓子店で買った物を携えている。ある意味罪滅ぼしの逸品だ。
「着いちゃったし……」
そして結局考えがまとまらないまま、響子の部屋の前に立つ。朝起きてからもひたすらに謝罪をする彼女を響子は何も言わず「いってらっしゃい」と笑顔で送り出してくれたものの、実際にレッスン一つを自分のせいで潰してしまったのだから本当はどう思っているのかはわからない。
「いや、もう謝るしかない、うん」
考えの帰結点は謝罪だ。どのように考えても最終的にそうするしかない。
インターフォンを鳴らす。アイドルの女子寮らしくセキュリティーはしっかりしている最新式のものだ。きっと中の小さなモニターにはこじんまりしている自分が映っているのだろうと沙紀は情けなく感じていた。
そして部屋の中から物音がする。恐らくモニターで確認できたためドアを開けるために歩いてきているのだろう。そう思っていたらその通りにドアのカギを開ける音と同時に扉が開けられる。
「お帰りなさいっ、沙紀さん」
「うぇ、あ、た、ただいま……?」
沙紀は真っ先に頭を下げようと考えていたのだが、出迎えた響子の笑顔に押されて固まったまま返答をしていた。
「ふふっ、お帰りなさいって言うのいいですね!朝の行ってきますもですけど、寮に入ってから殆ど言う事なくなっちゃいましたから」
「そ、そうっすね。確かに言われると嬉しい……って、違う違う!」
「え?もしかして、嫌でした?」
「そうじゃなくて!そのごめんなさい!アタシのせいでレッスン受けれなくなっちゃって」
沙紀がそう言って頭を下げると響子は少しだけ呆れたように息をついた。
「もう、朝も言ったじゃないですか。しょうがないですって、私も、その……抵抗しなかったわけですし」
「でも……」
「この話題はお終いにしましょう!それよりその手に持っているのはなんですか?」
「え、これっすか?いや、謝罪の気持ちっていうとあれなんですけど道中で買ってきたんです」
沙紀がその袋を手渡して中を見た響子は目を輝かせた。
「わっ!これって事務所近くの有名な所のお菓子じゃないですか!並んだんじゃないですか?」
「少し並びましたけど……」
「わざわざありがとうございます!じゃあ早速お茶にしましょう!昨日の紅茶、今日はストレートで飲んでみますか?」
「え、あ、響子ちゃん?」
呆気に取られたまま、沙紀は手を引かれて響子の部屋に再び導かれた。あまり沙紀が乗り気でないのが伝わったのか彼女は振り向いて尋ねる。
「あ、もしかして今日は予定ありました?」
「いや、ないですけど……その、怒ってないのかと思って」
「え、何でですか?」
「いや、だってキスマークを……」
いまだ申し訳なさそうにしている沙紀に響子はついに詰め寄るとおもむろに抱き着いた。
「おわっ!?」
思わず倒れそうになりながら何とか踏ん張って支える。身長の差があるため胸の部分あたりで響子を抱きしめる形になる。そしてそこから少しだけ悲しそうな声が響いた。
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