白菊ほたる「好きあったまま別れるよりも嫌われてでもいっしょにいたい」
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◆agif0ROmyg
[saga]
2017/08/26(土) 00:04:51.87 ID:VVa+UHSM0
だから、プロデューサーさんの婚約者が交通事故で死んだって聞いたときは、もう心臓が止まってしまいそうでした。
詳しく話を聞くことはできなかったのですが、もう結婚秒読み段階のお相手だったとのこと。
二人でお出かけしていて、暴走したトラックが突っ込んできて、不幸にも婚約者さんだけが轢かれてしまったそうです。
道路一面に肉が散らばったとかで……想像するにあまりあります。
そんな状況でも、しばらく後にプロデューサーさんは出勤してきました。
お葬式やお通夜のために休みを取って、それでまたすぐ復帰した、といったところでしょうか。
妻や親ならともかく、恋人レベルだとそれほど多くの休みはいただけないものなのでしょうか。
もっと待つことになるのかとも思っていたのですが、そのあたりの制度は、私にはよくわかりませんでした。
ただ、事務所にやってきたプロデューサーさんが明らかに憔悴していて、それが何よりも心配。
一応、プロデューサーの職務を果たせるくらいに整えてはいるのですが、肌や髪にツヤがなく、表情も硬い。
なんでもそのお相手とは結婚式の日取りも決まりかかってて、事故の日にはウェディングドレスを一緒に見に行っていたとのこと。
そこまで親しくなった女性が無残に事故死した、ともなれば、今こうして出勤してきているだけでも大変な負担のはずです。
かわいそう、などという言葉ではとても言い表せません。
こうして事務所に来てくれているのも、もしかしたら、働いていたほうが気が紛れるせいかもしれません。
プロデューサーさんは、特に担当アイドルの私に対しては、できるだけ弱ったところを見せないようにしているようでした。
気丈に振る舞っている、というよりは、心身を無理に酷使しているような……
ちひろさんをはじめ他の人たち、なるべくそっとしておこうとしています。
それはそれで悪いことではないのでしょう。
今の彼の痛みを、他人が理解できるとか限りませんからね。
たまに半休を取ったり、今までずっと溜め込んでいた有給を使ったりすることはありましたが、それでもプロデューサーさんは仕事を放棄したりはせず、私にもそれまで通りに接してくれていました。
出勤してくる時間が段々早まり、夜になってもなかなか帰宅しようとしないのが、どうも気がかり。
そんなある日。
他の人は皆帰ってしまった後、それでもまだプロデューサーさんは居残っている様子。
そろそろ私も寮に戻ったほうが良いのでしょうが、今のプロデューサーさんを一人で放っておくと、フラフラと何処かへ行ってしまいそうで不安なんです。
いつものデスクには姿が見えず、ゴミ箱の底にはお酒の空き缶が隠してあります。
あのプロデューサーさんが、終業後とはいえ職場で酒を飲むなんて。
今日が初めてというわけでもありません。
これは……もう、放っておく訳にはいきません。
執務室、オフィスにいないとなれば、休憩室でしょう。
急いで向かわないと。
無人の事務所を一人で歩くと、なんだか物寂しい気分になりますが……この程度、プロデューサーさんのことを思えばなんでもありません。
たどり着いた部屋にはカギもかかっておらず、そっと扉を開けて入室すると微かにアルコール臭がしました。
ハッと顔を上げて、プロデューサーさんは驚いた様子。
パイプベッドに腰掛けて、血走った眼を見開いて。
「ほたる……? なんで、こんな時間まで」
プロデューサーさんのことが気になって……
プロデューサーさんこそ、どうしてここに?
「……帰ると……思い出してしまう。それで辛くなる、なんで、助けられなかったんだって、眠れなくて、何もできなくて……」
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