速水奏「ピカレスクロマン」
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3: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2017/11/04(土) 22:52:46.65 ID:W1ZQLmn/0

私はずっと、気づいてないと思っていた。気づかれないままだと思い込んでいた。「気づかれて欲しかった。

知って欲しかったから挑発して、見られたかったから距離を詰めた。恥ずかしさを隠すために強がって、大人な振りをして、背伸びをした。そんなことを、3年も繰り返した。

でも、気づけていなかったのは私の方。

彼が、ずっと抱えていた私へのそれを、私は一番近くにいたのに知らなかった。

そうして、さっき知ったばかりのその気持ちから、私は何も言わず逃げ出してしまった。

「…」

ベッドのそばに脱ぎ捨てたコートのポケットからスマートホンを取り出し、彼に一言だけメッセージを送る。

〈今どこにいるの?〉

2分ほどして、スマートホンが震えた。

〈事務所だ〉

〈分かった〉

彼に返信して、コートを着直して内ポケットにスマートホンを入れる。化粧台に置いていた赤いマフラーを巻いて、玄関で乱暴に脱ぎ捨てた靴を履いて、私は雪空の下に出た。その間、数回内ポケットが振動したけれど無視をした。

彼に会いたかった。逃げ出してしまった彼の思いに、ちゃんと応えるために。気づいて欲しかった私の思いを、伝えるために。

雪が舞う中、私は走り出す。積もりかけていた雪の絨毯には、私の足跡だけが残っていった。




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