742:塔の主 ◆B2ErFCUzdE[sage saga]
2018/03/10(土) 07:43:53.40 ID:R/EdiaWy0
(けど―この娘の言っていることは本当だわ)
ウェルはアリスの言葉が真実であると確信していた。
普通の人間には使えない、次元の違う魔力を操る『鍵』の力。
もし、あの力を自在に行使したいと思う者がいたとしたら。
人間に使えないなら『使えるモノ』を作ってしまえばいい―と考える者がいたとしたら。
ウェルのその推測は既に裏付けられている。
今ホムンクルスを自称したアリスは実際に鍵の力を引き出してみせたではないか。
(あの『鍵』…この娘はあの『鍵』の力を引き出すために作られた…なるほど。結構不憫な境遇じゃない)
それならば何故アリス自身はそのことを知らないのか、創造主であろう『おとうさん』なる人物は彼女に何をさせようとしていたのか、そもそもあの鍵はなんなのか―。
(あんな力を使わせるためにホムンクルスを作ったんだとしたら、相当ロクでもない企みがあるに決まってるわ)
色々と興味は尽きないが、そのあたりのことはあまり踏み込まない方がいいのだろうとウェルは思った。
「あなたは どうなの?」
「え?」
「あなたには たいせつなひと、いないの?」
しばし沈黙のあと、ウェルは応えた。
「…いないわ。小さいころに親にも見放されて、それからずっとひとり」
話しながらウェルはまた歩き始める。アリスもまたとてとてと後ろについていく。
「…私、ハーフなの。人間と淫魔の」
振り返らずに、ぼそりと呟く。
種族としての『インキュバス』は人間の女性と交配し子を成す。
生まれた子は女なら人間として、男ならインキュバスとして成長する。
この場合ウェルは前者、以前ミルキィたちと遭遇したインキュバスは後者である。
ただ人間として生まれた場合でも魔法の才能に恵まれていたり、
成長するにつれて淫猥な性質が肉体にも精神にも反映されるなど、淫魔としての性質が完全に失われるわけではない。
ウェルは特に『淫魔』としての性質が強く現れた『人間』の女の子であった。
「まぁ困るわよねー。人間でも淫魔でもない中途半端な私の扱いなんて。そういう奴はこういうダンジョンでヤクザな商売やって生きてくしかないわけよ」
(あぁ…でもこの娘も生き物かどうかよくわからない半端モノよね…)
アリスの方を振り返ってちらりと視線をおくる。
「そ、そういえば、貴方の仲間たちは貴方がホムンクルスだって知ってるの?」
「ギルドにはいるとき はなしてる。…あ ミルキィには いうのわすれてた」
まるで大したことのない話題であるかのように話すアリス。
「受け入れられてるんだ…物好きな人たちもいるのね」
(でもこの子があんな鍵の力を奮えることがわかっちゃったら。それでもこの娘は見放されずにいられるのかしら)
ウェルは知っている。
最初は不憫だ、可愛そうだと手を差し伸べてくれた人たち。
そんな彼らが彼女の淫魔の血ゆえの力と才能に恐怖と疎ましさを露わにしていく様を。
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