ドロシー「またハニートラップかよ…って、プリンセスに!?」
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613: ◆b0M46H9tf98h[sage saga]
2022/08/05(金) 00:13:21.28 ID:wrXc5wju0
伯爵「それではそろそろパイの方に参りましょう♪」

高齢の貴族婦人「まぁまぁ、美味しそうなパイですこと」

伯爵「でしょうな。これはうちの料理人が特に自慢している一品でしてね……ささ、私がお取りしますよ」

貴族婦人「まぁ、ありがとう」

男爵「……うむ、確かに絶品だ」

男爵夫人「実に美味しいですわ♪」


…まるで軍艦の船体かアイロンのような、立ち上がりのある木の葉型をした大きなパイが食卓に運ばれてきた……まだ湯気を残しているパイはこんがりといい色をしていて、表面にはパイ皮で産業のシンボルである歯車と自然の象徴である木の葉をあしらってある……中に詰まっているのはたっぷりのビーフで、じっくりと煮込まれていて柔らかく、オレガノやローズマリーの風味、そして肉の臭みを消すために使われている黒胡椒の後に残すぴりっとした刺激がよく調和している…


赤ら顔の男爵「いや、これは素晴らしいですな……どうです、うちの料理人と取り替えませんか?」

伯爵「ははは。 ウィルポール男爵、あなたの抱えていらっしゃる料理人はスープが絶品だと聞いておりますよ」

男爵「ええ、いかにも……スープの時はうちの料理人を使って、パイの時は伯爵の料理人を使えれば言うことなしなのですがね」

伯爵「世の中はままならないものですな」

男爵「まったくですな……もう一切れお願いいたしますよ」

伯爵「ええ、お取りしましょう」


…壁際でじっと動かず装飾のように控えている護衛官は切り分け用のナイフが動くたびに、いつ刃がプリンセスに向けられても対応できるよう、そのたびごとにちらっと注意を向けている……プリンセスは背中に護衛官たちの視線を意識しながらもにこやかに微笑み、あくまで「プリンセスらしい」上品な冗談で軽い笑いを取り、ドレスを汚すことのないよう、小鳥が餌をついばむように少しずつパイをいただく…

伯爵「いかがですか、プリンセス? お口に合いますでしょうか」

プリンセス「ええ、とても……本当に美味ですわ♪」

…体調を崩して公的行事を欠席したりすることがないよう、常に食事は控え目で節制を求められているプリンセスは、いかに美味しいパイではあってもお代わりを頼むようなことはできず、好きなように飲み食いできる立場の貴族たちが少しだけ羨ましい……しかしながらそれと同時に、周囲に気を配り余計な事を口走ったりしないよう緊張し頭を働かせているためか、こうした場面ではあまり空腹を感じない…


男爵「……いやはや、絶品でしたな」

男爵夫人「素晴らしい食事でしたわ」

伯爵「そう言っていただけると実に嬉しい。 ワインはいかがですかな? それともブランデー? プリンセス、いかがですか?」

プリンセス「ありがとうございます、それではワインにしましょう」

貴族婦人「それではわたくしも……」

伯爵「チーズは? ロクフォール? チェシャ? スティルトン?」

プリンセス「そうですね……」

………

…厨房…


…明るく照らされた食卓で笑いさざめいている間に、厨房には次々と皿やグラスが運ばれてくる……湯を沸かした大きな桶に次々と皿がつけ込まれ、汚れが浮いたところで海綿(かいめん)のスポンジを使って汚れを洗い落としていく……ワイングラスは丁寧にゆすぎ、皿とは別に管理される…

料理人「おい、丁寧にやれ! これだから雇われの下働きは嫌なんだ……」

料理人B「盆はそっちじゃない! こっちだ!」

共和国エージェント「……」

…めまぐるしく人が行き来し、料理人でさえ目が回りそうな空間からさっと抜けだすと、人気のない廊下で対象と待ち合わせるエージェント……と、そこへやせ型の貴族が一人やってきた……わし鼻に気難しそうな顔立ち、愉快なパーティに来たというのにへの字に曲がっている口……身に付けている物こそ悪くないが底意地の悪そうな態度のせいで、したくもない仮装をさせられた寄宿学校の校長先生か何かに見える…

貴族「おい、メイド。手洗いはどこだ」

エージェント「申し訳ございません、わたくしは臨時に雇われただけでございますので……」

貴族「なんだ、使えんな。これだから下層階級は困る。 これならうちの犬の「グロウラー(うなる奴)」の方がよっぽど利口だ……まったく、教養という物はないのか」そう吐きすてるように言った中にさりげなく、取り決めてあった「グロウラー」という合い言葉が入っている……

エージェント「はい、あいにくと「マクベス」も読んだことがありませんので」

貴族「ふん。 シェークスピアなんぞただの劇作家に過ぎん……もういい」

エージェント「申し訳ございません」頭を下げてわびながら、相手に連絡手段の手はずを書いた紙片をつかませる……

貴族「うむ……」



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