ドロシー「またハニートラップかよ…って、プリンセスに!?」
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[sage saga]
2023/08/17(木) 01:25:35.71 ID:cBsWl0bM0
…広場のパティスリー(菓子店)…
ちせ「おお……何ともきらびやかなものじゃ」
…洋菓子店の中に入ると、店内にはガラスのショーケースや木の棚が間口いっぱいに伸びていて、そこにアイシング(砂糖がけ)やフォンダンで飾り立てた可愛らしい菓子が山と並べられている…
千代「ふふ♪ ここのお菓子は大変に美味しいですから、いつもここに来るのが楽しみなんですの」
ちせ「うむむ……」
…ちせと千代がどれを選ぼうかとショーケースを眺めている間にも、訪れた客があれこれと指さして注文をしていく……せわしなく動く店員たちはケーキや取り出しては袋に詰め、代金を受け取ったり、あるいはお得意さんには「では月末に」とつけ払いを勘定を書き入れ、お愛想と一緒に菓子を手渡す……買いに来ている客は暗黙の了解のうちに階級で分かれているアルビオン王国と違って貴賤を問わないらしく、パリの最新流行を取り入れた小粋なドレスをまとった裕福そうなマドモアゼルから、ダンスホールでのひと踊りに備えて鋭気を養いに来た小粋な踊り子まで、さまざまな階層の人間が集まっている…
千代「さあ、どれになさいましょう?」
ちせ「むむ……そう言われても洋菓子は疎いし、それにこう多くては選びようがないのじゃが……」
千代「分かりました、それでは私が代わりに見つくろって差し上げますわ」
ちせ「なるほど、それは助かる。ぜひともお願いいたす」
千代「はい、心得ました」
…千代はショーケースに近寄ると店員に流暢な(とちせには思われる)フランス語で話しかけた……店員とやり取りをしながら、千代は手際よくあれこれと菓子を指さしては袋に詰めさせる…
ちせ「そんなに買って大丈夫なのか?」
千代「あら、だってちせさんはフランスが初めてのようですし、それならば色々なお菓子を味わっておきませんと……ね?」
ちせ「む、それはそうじゃが……では支払いは私が……」そう言って札入れを出そうとすると千代が穏やかな手つきで……しかしちせの動きを止めるようにぱしっと手首を押さえた……
千代「今日は私がちせさんをお誘いしたのですから、ここは私に払わせて下さいな」
ちせ「いや、しかしじゃな……」
千代「まぁまぁ。次の機会になりましたらちせさんにお頼みして「あいこ」ということにいたしますから、今日の所はわたくしの顔を立てて下さいませんか?」
ちせ「そこまで言われてはな……ではお頼みする」
千代「はい♪」
…ここがフランスの地でありながら「アルビオン王国ノルマンディ飛び地」であることを思い出させる、女王陛下の肖像が刷られた王国ポンド札を手渡すと、ちせを連れて店を出た…
ちせ「ふむ、これだけの量があれば二日や三日は食いつなげそうじゃ」
千代「ふふふっ、まぁおかしい♪ お菓子を見て籠城のことをお考えになるなんて」
ちせ「いや、これはくだらぬ事を申した」
千代「いいえ、面白いものの見方ですわ……さて、お菓子は買えたわけですけれど、どうせですからくつろげるように私のお家に参りましょう?」
ちせ「いや、申し出は嬉しいが……しかし急にお呼ばれしてはご家族も迷惑じゃろう」
千代「いいえ。私の家はちょっとした貿易商会を営んでおりますからお客様はよくいらっしゃいますし、それに同じ日本人のお客様なら皆も喜びます。それに父は商談のために出ておりますから」
ちせ「千代どのがそこまでおっしゃるのなら……お言葉に甘えさせてもらおうかの」
千代「まぁ嬉しい♪」善は急げとばかりに一頭立ての軽快な辻馬車を呼び止めると、二人は御者に手を引いてもらって席に乗り込んだ……
………
…十数分後・とある邸宅…
千代「……こちらですわ、ちせさん」
ちせ「ふむ。洋館のことはあまり分からぬが、立派な構えの館じゃな」
…辻馬車を降りると、目の前にはわりと小ぶりな……しかしそれなりに立派な館が建っていて、庭木を絨毯の模様のように整えたフランス風の庭園には、水がめを抱えた乙女が立っている小さな噴水がある…
千代「お褒めにあずかり恐縮です……さ、中へどうぞ?」
ちせ「うむ、ではお邪魔させていただく……」
…千代が多少くすんではいるが、それでも立派な樫の扉を開けて中に入るようにうながした……ちせが礼を言って中に入ると、そこはフランスのシャトー(館)にふさわしく、明るい色合いでまとめられた玄関ホールになっていた…
千代「それでは私のお部屋に参りましょう? それとすぐにお茶を用意させますから」
ちせ「うむ……」貿易商の家に呼ばれたことがそうあるわけでもないが、千代の住んでいる館はせわしない雰囲気の貿易商の館というよりは、どことなく物静かに人目を避けて暮らしている隠居所のように感じられた……
千代「……どことなく活気がなくってもの淋しいでしょう?」
ちせ「あぁ、いや……閑静なよい暮らしじゃな」
千代「まぁお上手……でも、ちせさんの印象通りで今は少しばかり淋しい雰囲気なのです。と言うのも、父を始め手代の者たちは商談と交易のためにここしばらく家を離れておりまして……ですからなおのこと、ちせさんがお出でになって下さって嬉しいですわ」
ちせ「なるほど、そういう事情であったか」
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