ドロシー「またハニートラップかよ…って、プリンセスに!?」
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664: ◆b0M46H9tf98h[sage saga]
2023/09/23(土) 01:48:11.28 ID:wZyn+kDj0
…翌朝…

ドロシー「うーん、すっきりと気持ちのいい朝だ……とはいいがたいな」

アンジェ「あいにくの曇り空ね」

ドロシー「ああ……だがまぁいいさ、こんな天気はロンドンで慣れっこだ」

アンジェ「そうね……ちせ、朝食は?」

ちせ「それならば一応済ませてはきたのじゃが……」

ドロシー「相変わらずか?」

ちせ「うむ。固い麺麭(パン)に砂糖入りのコーヒーだけではどうにも物足りぬ……炊きたての飯にきゅうりの漬物、それにおみおつけでも欲しい所じゃ」どうやら焼きなましのバゲットかなにかをあてがわれたらしく、いささか物足りない様子のちせ……

ドロシー「そういうことならごあいにくさまだが、こっちもそう変わらないな」

…ベッドに腰かけたまま、はだけたナイトガウン姿で朝食の盆を指し示したドロシー……銀の盆にはいわゆる「大陸風」(コンチネンタル・スタイル)……あるいはむしろ「フランス風」とでもいうべき朝食として、焼きたてのクロワッサンと、大きめなお椀に入った温かいカフェ・オ・レが並んでいる…

ちせ「……二人の朝食もそれだけなのか?」

アンジェ「ええ。フランスの朝食は大抵こうよ」

ドロシー「アルビオンの労働者階級だけさ、朝からビイクドビーンズに焼きソーセージだの卵を付けるのはな……せっかくだし、一つ食うか?」

…ドロシーはそう言って大ぶりなクロワッサンを差し出した……フランスでは生地にバターを用いて巻いてある伝統的なクロワッサンは直線状で、ナポレオン時代の物資不足のおりに生まれたマーガリンを使ったクロワッサンは区別のために両端を丸めて「C」の字型にしてある……むろん、ホテルの客であるドロシーたちの盆には真っ直ぐなクロワッサンが載っている…

ちせ「ではありがたく……むむ!?」結局パンとコーヒーだけの朝食である事を知り、至極残念そうにクロワッサンを受け取って一口かじったが、途端に目を見開き、まじまじとクロワッサンを眺めた……

ドロシー「はは、そんなに美味かったか?」

ちせ「う、うむ……歯ごたえはサクサクとしていて、牛酪(バター)の味が口の中に広がって……実に美味じゃ」

アンジェ「良かったわね。カフェ・オ・レに浸すのがフランス流よ」

ちせ「ならば……むむ、なるほど」

ドロシー「良かったらもう一つやるよ。どうせマルシェ(市場)に行ったら買い食いもできるしな」

ちせ「かたじけない、では……」

アンジェ「食べ終わったら着替えて出かけるから、あとは任せるわ」

ちせ「気を付けての……私もしばらくしたら日本の旅券事務所に行かねばならぬ」

ドロシー「そうか。ま、気を付けてな」

ちせ「うむ……それにしても美味いのう……」

…午前中・マルシェ…

ドロシー「さてと、なにか気の利いたお土産でも見つかるといいのだけれど♪」

アンジェ「地元のマルシェには掘り出し物もありますから、きっと素敵な物が手に入りますわ」

…すっかり板についた「お金持ちのぼんくらお嬢様」と「小ずるいフランス娘」の役回りを演じつつ、二人してマルシェを冷やかして回る……露店には取り立てのニンジンから手作りの陶器の皿、どこかのお屋敷から出てきたらしい古い勲章、盗品とおぼしき、元は揃いだったはずの銀食器が一つだけ……種々雑多な品物が売りに出され、所々に軽食や飲み物を売る屋台も出ている…

ドロシー「あら、これなんか素敵じゃない?」

アンジェ「ええ、まったく。素敵な焼き物のお人形ですわ」

ドロシー「これも可愛いわね、暖炉の上に飾ろうかしら?」

アンジェ「ふふっ、とってもいいと思いますわ♪ ……ガラスのお目々をしたお嬢様にはぴったりね」

…少し欠けのある陶器の天使像だの、素性のしれないヘボ絵画だのを見ながら、いちいち感動したような声をあげるドロシー……かたわらのアンジェは英語でドロシーの「鑑定眼」を褒めそやしながら、ときおり小さくフランス語で皮肉をつぶやく…

ドロシー「それじゃあ次のお店は……あら、ここは良さそうね♪」

古物商のおばさん「いらっしゃい、お嬢さんがた♪」露店の主は恰幅のいいフランス人のおばさんで、田舎者丸出しのよれたエプロンとスカート、それに真っ赤なリンゴのような健康そうなほっぺたをしている…

アンジェ「何かいい物はある? ……『ヴォークランから掘り出し物があると聞いてきた』のだけれど」

おばさん「ああ、それならとっときのがあるわよ……ほら、これなんてどう?」そう言ってかたわらに置いてあった一客だけのティーカップを取り出した……

アンジェ「そうね……いくら?」

おばさん「まぁそうね、十フランくらいでどう?」

アンジェ「冗談はやめて。せいぜいこの程度でしょう」素人には分からない符牒を表す手つきで数字を示した……

おばさん「厳しいわねえ……まあいいわ。それじゃあ包んであげるからね」そう言うとカップの入りそうな小さい木箱を探し出し、それからかたわらに置いてある古新聞や黄ばんだ古紙の束から何枚か紙を引っ張り出すとカップを包み、残りはくしゃくしゃに丸めて箱のすき間に詰め込んだ……

アンジェ「メルスィ……」


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