ドロシー「またハニートラップかよ…って、プリンセスに!?」
��↓ ��1- ��覧 ��板 ��20
665: ◆b0M46H9tf98h[sage saga]
2023/10/02(月) 02:18:42.25 ID:HEsM/+DM0
…同じ頃・旅券事務所…

ちせ「ここじゃな」

…ちせが徒歩でやって来たのはル・アーヴルにある日本の旅券事務所で、レンガ造りの洋館には何台かの自動車や馬車が停まり、貿易商や船員、はたまた外国留学に来たと思われる学生や堅苦しい感じの役人といった人々が頻繁に出入りしている…

ちせ「さて、どこが窓口じゃろうか?」

…入口をくぐると中は待合室になっていて、英字や仏字の新聞を差してある新聞ラックや公示された役所の通達を掲示している掲示板といったものが並んでいて、正面の窓口では数人のお役人が書類にハンコを付いたり、必要な部分を書き入れたりしている……室内は天井が高いせいか申請に来ている人たちと窓口の係のやり取りや、奥でタイピストの女性たちが叩いているタイプライターの音が反響して混じり合い、「騒がしい」とまではいかずとも活気を帯びている…

ちせ「ふむ、あれが窓口のようじゃな……」窓口にはインクで袖口を汚さないよう布カバーをつけた年若い官吏が座っていて、少しつっけんどんな態度ながらも、手際よく書類をさばいている……

ちせ「……失礼いたす」

窓口の官吏「まずは身分証を見せて」

ちせ「あー、そのことなのじゃが……」

窓口「なに? 官費留学の書類だったらここじゃなくて向こうの窓口」

ちせ「いや、そうではなく……ちと旅券のことで『佐伯どの』にお頼みしたい儀があるのじゃが、こちらで受け付けるようにと……」

窓口「佐伯事務官に? そう、少し待っていなさい」窓口の官吏がせかせかと奥へ引っ込むと、それと入れ替わるようにして上役らしい官吏が出てきた……口にはひげをたくわえ、きちんとした三つ揃い(スリーピース)姿で、チョッキからは銀時計の鎖が伸びている……

事務官「……私が佐伯だが、何かご用か」

…窓口の若い官吏を下がらせると、ちせの正面に座った中年の官吏……髪は当世風にきちんと撫でつけていて、丸縁の眼鏡を胸元のポケットに収めている…

ちせ「うむ」

事務官「……それで? 見ての通り忙しいので手短にしてもらえるとありがたいのだが」

ちせ「そのことなのじゃが……実は船を降りたときに旅券を落としてしまったようで難儀をいたしており、お手数ながら再発給をお願い致す」

事務官「ふぅ……年端のいかぬ女学生とはいえ、軽々に「落とした」とか「無くした」では困る。いったい『どこで無くしたのか心当たり』はないのかね?」

ちせ「それならば、ル・アーヴル港の『六番桟橋のそば』で落としたものと思うのじゃが……探しても見つからずじまいでの」

事務官「なるほど。六番桟橋で……誰か身元の保証をしてくれる者は?」小柄な少女であるちせから合い言葉が出てきたことに一瞬驚いたようだったが、すぐ表情を取り繕った……

ちせ「うむ、駐アルビオン全権大使の堀河公が……」

事務官「ああ、それならばよろしい。ただ、明日は休日でここの旅券事務所も業務を行っておらんから、今から臨時の旅券を作っても発券の手続きは出来ん。 ただ、もし急ぎと言うことならば明日の晩に本職の私邸に来ればそこで渡すことはできるが、それでよいか?」

ちせ「おお、かたじけない。 ぜひともお願い致す」

事務官「結構。今後はそういったことのないよう注意するように」

…午後…

アンジェ「ちせの用事も明日には済むそうだから、それが済み次第アルビオンに戻りましょう」

ドロシー「そうだな……だが、どうも雲行きが良くないぜ」港への道すがら、車の窓から空を見上げるドロシー……

アンジェ「そうね」

…ドロシーとアンジェが懸念するように、空はドーヴァー海峡を覆うことで有名な濃霧を予感させる黄色っぽい雲が低く立ちこめ、心なしか空気も湿っぽい…

ドロシー「予備日があると言っても一日か二日が精一杯だ。明後日の船が無事に出てくれればいいんだが……」

…ル・アーヴル港…

ドロシー「……欠航ですの?」

船会社の窓口係「そうです。今日と明日は海峡の波が高く霧も出ているので、海峡横断の客船は軒並み欠航です。明後日以降も天気次第では出られないかもしれません」

ドロシー「それは困りました……フランスに来たのは連休があったからで、休み明けはきちんと授業に出ませんと怒られてしまいますわ」心の中で(悪い予感ってやつほど良く当たるもんだ……)とぼやきながらも、お嬢様口調のまま船会社の丁寧な応対を受けるドロシー…

窓口係「そうおっしゃられてもこればかりは私どもにもどうしようもありませんので……この切符は出港する船のものに振り替えが効きますから、とにかくこの霧が明けるまではお待ちいただくしかありません」

ドロシー「分かりました、ご親切にありがとう……思ってもいない形だが、これで日数に余裕が出たな」

アンジェ「ええ」

ドロシー「とにかく、ちせの用事が済んで霧が晴れる事を願うしかないな」

アンジェ「そうね。それと貴女は今のうちにラテン語の書き取りでもしておいたら?」

ドロシー「なぁに、それなら「仲良しの」娘にでも代筆させるさ」

アンジェ「ずる賢いのね」

ドロシー「そこは「要領がいい」って言ってもらいたいな♪」


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