ドロシー「またハニートラップかよ…って、プリンセスに!?」
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667: ◆b0M46H9tf98h[sage saga]
2023/10/24(火) 02:09:50.60 ID:ODjE/ygz0
…次の日・宵の口…

ちせ「……さて、そろそろ出かけようと思うのじゃが」

ドロシー「ずいぶんと早いじゃないか」

ちせ「うむ。徒歩で行くとなればこのくらいは見越しておかねばな……もっとも、いざとなれば馬車や車を拾うつもりじゃが」

ドロシー「行き先は大使館事務官の私邸だったか? それなら車を用意するから、近くまで送ってやるよ」

アンジェ「そうね、その方がいいかもしれないわ。ドロシーの運転でいいなら……だけれど」

ドロシー「おい、私の運転で何がいけないんだ?」

アンジェ「……自分の胸に手を当てて考えてみれば分かるわ」

ドロシー「あいにくさっぱりだね」

アンジェ「そう……とにかく、車なら歩いて行くより時間の節約にもなるし、見なれない顔だとじろじろ見られたりしないで済むわ」

ちせ「それはそうじゃが、そのような手数をかけては申し訳ない」

ドロシー「なーに、遠慮するなって。それにフランス人の馬車やタクシーを「東洋人」のお前さんが拾った日にゃ、フランス語でぺらぺらやられたあげくにムチャクチャな値段をぼったくられるか、まるっきり別な所で降ろされるのがオチだ」

アンジェ「それだけは間違いないわね」

ドロシー「ああ。それにこっちもその書記官だか事務員だかの家まで押しかけようとかやり取りをのぞき見しようとかってつもりじゃないんだ、安心してくれ」

ちせ「いや、別にそなたらを疑っているわけではないのじゃが……」

ドロシー「なら決まりだ。いつ出せばいい?」

ちせ「うむ、今夜の八時頃までに着けば良いのじゃが……」

ドロシー「分かった。それなら夕食を早めに済ませて準備しよう……まだ時間はあるし、それに厨房からいい匂いがしてきたじゃないか♪」

…同じ頃・貿易商の邸宅…

丹左衛門「……千代、いかがいたした?」

千代「いえ……」パティスリーのお菓子をお供にちせとたわむれた一時をふと思い出して、一瞬ぼんやりとした千代……

丹左衛門「事に望んで気がそぞろではし損じるぞ、しっかりいたせ」

千代「はっ」

…ちせがお呼ばれした千代の住む邸宅……普段なら夕食時で、家族と召使いがいるだけの静かな空間であるはずの食堂には多くの老若男女が詰めかけ、食堂の扉を開放して玄関ホールにまで人が押しかけている……辺りはランタンや提灯がいくつもおかれて真昼のように煌々と照らされ、居並ぶ人々の表情は熱っぽい輝きを帯びているか、さもなければ厳めしいものが浮かんでいる……集まっている者の中には洋装の者もいるが、かなりの数が紋付きの羽織袴で、中には伸ばしていたらしい髪を剃って再び髷に結い直している者もいる…

初老の男「そう言うな、佐倉氏(うじ)……千代を含めて多くの者にとっては初めてなのだからな」

丹左衛門「だからこそじゃ……とにかく、いよいよ正念場なのだから気を引き締めて参らんと」

険しい顔の男「いかにも。今日こそ我らの本懐を遂げるその第一歩、くれぐれもおろそかにはできぬ!」女性陣と子供のうちの何人かが配って回っている漆の杯を受け取ると、なみなみと注がれた清酒の杯を片手に重々しい声で言った……

丹左衛門「左様。では皆の者、杯を……」

…杯が行き渡ったかどうか確認すると、丹左衛門がすっくと立ち上がってよく通る声で呼びかけた……居並ぶ男女が一斉に立ち上がると、そのまま音頭をとった…

丹左衛門「みな……まずはよく集まってくれた」

丹左衛門「我らが大願成就のためとはいえ……故郷を捨て、度重なる屈辱に耐え、異国の地で長きに渡る雌伏の時を過ごしてまで付き従ってくれたこと、かたじけなく思う」

丹左衛門「……朋輩(ほうばい)たちの仇を報ずるまでと、刀を外し、髷を落とし……ただ武士としての矜恃のみを支えに日陰を歩んできた……だが、それも今宵まで!」

丹左衛門「……まずはここフランスの地で憎き薩長の手先を討ち、志なかばにして倒れた者たちへの手向けといたそう!」

一同「「おう!」」丹左衛門の言葉が終わると、一斉に冷酒をあおった……

千代「……」

丹左衛門「……千代、そなたにも期待しておるぞ」

千代「はっ」

丹左衛門「良い返事じゃ……」

…そっと千代の頭を撫でる丹左衛門……が、すぐに手を引っ込めると厳しい表情に戻り、人いきれするほど詰めかけている集団に向けて堂々たる声をあげた…

丹左衛門「では各々方(おのおのがた)、参ろう!」



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