17: ◆FreegeF7ndth[saga]
2018/05/20(日) 18:25:46.58 ID:8NRe1KMEo
茄子は、世間には真相を伏せて「実家を継ぐために勉学に専念する」との名目でアイドルを引退した。
俺もプロデューサーを辞めさせられた。
事務所は、茄子だけは辞めさせたくなかったらしいが、
茄子が「この子を堕ろせと? 何があっても知りませんよ」
と口にすると、みんな引き下がったらしい。触らぬ神になんとやら。
『もう茄子には、生き神じみた幸運はないだろうに』
『どうして、私が幸運でなくなったと思ったんですか。子供ができちゃったから? それがバレちゃったから?』
特に根拠はなかった。
ただ俺はかつて『でもね、幸運がじきに失われるとしたら、どうでしょう』と茄子から聞いていた。
それで『いつか幸運はなくなるものだ』と思っていた。
『確信はない。ただ、茄子がもう幸運体質じゃなくなってるほうが良いな、と思ってるだけだ。
その方が、もうソレ目当てのお邪魔虫が茄子に寄ってこないから』
『あなた、自分がさんざんソレ利用してファン集めておいて』
茄子は破顔した。
もし、幸運にすがらないアイドルとして茄子をプロデュースできていたら、
こんな末路に――と考えて、やめた。そんなことを考えたら、それこそ茄子は俺を許すまい。
『そんなことより、茄子とこの子を食わせていく仕事を探してくる』と俺が言うと、
茄子は『幸運がなくなっても、それは心配ないですよ』と返してきた。
俺は、神職となるため勉強して茄子の母校に入った。
通学中に見た渋谷の街は、茄子をスカウトしたときと変わらぬ喧騒に包まれていた。
神職の世界は狭く、俺と茄子の醜聞は大学の教授にも学生にも知れ渡っていた。
斯界の名家に手を出しやがって、という視線をひしひしと感じたが、
ある意味で茄子が浴びてきた嫉妬と似たものだと思えば、むしろ心地よかった。
卒業して島根に帰ると、茄子と義父母と、アイドル引退のキッカケとなった娘が迎えてくれた。
あれから東京に何年もいたため、娘に顔を忘れられてやしないかと心配したが、杞憂だった。
茄子が写真や動画で俺の顔を見せていてくれていたらしい。
俺と茄子は鷹富士家の近くの空き家を借りて、神社の仕事を手伝っている。
神社は、茄子の全盛期ほどではないが、田舎にしては賑わっていて、それなりに忙しい。
商売繁盛のご祈願が激減し、代わりに子宝のご祈願が増えた。人の口には戸が立てられないようだ。
幸運体質とは、ご祭神・大国主大神様が、神社の守り人を受け継ぐ鷹富士家に対し、
家が断絶しないよう一族のもっとも若い者を対象に与えるご加護らしい。
『あなたからは、それ以外の幸運の使い途も教えてもらいましたけどねっ』
それゆえ、俺と茄子の間に子供ができた瞬間、茄子の幸運体質は俺との子に移った。
それで茄子が幸運を失って、俺たちの関係が露見し、芸能界を去ることになった。
確かに、あの業界にいると子育てはやりにくい。
俺たちがこの神社に戻るほうが、娘にとっての幸せなのだろう、
俺はようやく、義父母に最初に言われた言葉を理解できた。
「いずれ社を継ぐ」のと同じく、茄子が「幸運体質を失う」のも鷹富士家では既定路線だったのだ。
理解するのが遅すぎて俺の人生まで変わってしまったが、もう気にしなかった。
茄子と出会ってここまでこれたことが幸運だと思えた。
この幸運、茄子にも負けない自信がある。
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