7: ◆FreegeF7ndth[saga]
2018/05/20(日) 18:17:54.14 ID:8NRe1KMEo
『ツイてるというのは、いいことばかりではありませんがね』
『禍福は糾える縄の如し、ですか』
母親は、まだ当たりが強い。
『幸運は妬みをうけます。私どものお社でお祭りする大国主大神様は、
八上姫という美人の女神様と結婚するのですが』
『因幡の白兎で、兎を助けた優しさを見られていたのですよね』
当然このぐらいは茄子を通じて下調べしている。
俺が応じると、父親のほうは嬉しそうに笑った。
『その幸運を兄たちからねたまれて、熱した大岩をぶつけられ殺されてしまうのです」
赤猪(あかい)抱き、という逸話だ。
『古事記』にも記されている(茄子から教えてもらうまで、俺は知らなかったが)。
大国主大神(オオクニヌシ)は兄神から「赤いイノシシが突っ込んでくるから捕まえろ」と命じられた。
しかしやってきたのは、兄神が蹴落とした熱い大岩。大国主大神はひとたまりもなく死んでしまう。
『まぁまぁ、生き返らせてもらえるんだが』
ちなみに大国主大神はこの件で故郷・葦原中国(あしはらのなかつくに)を離れて、あちこちを放浪し現地妻を作る。
『その幸運を、アイドルとしてたくさんのファンに分け与えて欲しいのです』
『幸運を、分け与える?』
茄子にぶつけた口説き文句を、今度はその両親へぶつける。
あの頃の俺は、茄子の幸運について半信半疑だったが、
相手が信じているのであればそれに合わせて説得するまでだった。
『その発想は、僕にはなかったな。まぁまぁ、茄子が良いというのであれば』
『お父さんっ』
やっぱり、父親は乗り気である。
『ただ、プロデューサー君には二つだけ言っておく』
俺は父親の勿体に合わせて、せいいっぱい威儀を正した。
『うちの子は茄子一人だ。いずれこのお社を継いでもらう。
茄子の幸運もいつかは失われるはずだ。そう長くは東京へやれないが、よろしいか?』
『承知しました。私が責任を持って、茄子さんの芸能活動を支えます』
俺はこの時、父親の言葉を深く考えていなかった。
まぁ、なんとかなりそうだろうと思っていた。
アイドルは長く続けられる稼業じゃないから、家業があるのはマイナスにならないし、
茄子をスカウトしたのは幸運とは関係ない。
幸運を当てにしなくても茄子は成功できる、と俺は確信していた。
『よいよい、君を信じよう。僕はスサノオ様じゃないから、娘を預けるのに試練は与えないよ。
どうせ茄子が助けてしまうだろうしね』
『お父さんったら、まるで私とプロデューサーが結婚するみたい』
『そのぐらいの覚悟でいてもらわねば困りますよ』
母親は俺にも釘を刺してきた。
良くも悪くも、俺は茄子の父親と似た者同士のように思われたようだ。
茄子のアイドルデビューは、両親のお墨付きを得た。それからは、トントン拍子である。
こうした茄子の両親の信頼に、俺はできるだけ応えてきたと思う。
仕事を神社の娘にふさわしいもののみを厳選してきた。
なので、とときら学園のようないかがわしい仕事は、本来いれたくなかった。
が、ある意味それが原因で、俺は茄子と肉体関係を結んでしまったともいえる。
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