8: ◆FreegeF7ndth[saga]
2018/05/20(日) 18:18:38.07 ID:8NRe1KMEo
茄子を最初に抱いたのは、秋深まる11月。プロ野球の日本シリーズ最終戦の日の夜だ。
『スターの球団の皆さん、優勝をお祈りしていますからね!』
なぜそんな覚え方をしているのかというと、俺がその日の茄子に、
日本シリーズに出場した「スターの球団」を応援する仕事を入れていたせいだ。
うちの事務所と「スターの球団」の親会社は関係が深く、定期的にアイドルが球場に来て華を添えていた。
今回は特に験を担いだ先方から、茄子のご指名があった。
『ヤマサキ投手! いつも応援してくださってありがとうございます。
今夜はきっと、あなたが胴上げ投手になって、日本一になれますよ!』
球団一の茄子のファンは、チームの抑え投手らしい。
大一番の前にカチコチに緊張していたが、茄子に手を握られるとデレデレしていい感じに脱力していた。
彼が調子を落とし気味ということで、監督が気遣って茄子を呼ばせたのだそうだ。
さすがはリーグを制した監督だ、選手の心によく目を配っている。
試合は「スターの球団」が1点リードで、9回裏を迎えた。
ヤマサキ投手がリリーフカーでマウンドへ――しかし、素人目の俺にも、制球が安定していないとわかる。
フォアボールで無死一塁。次のバッターは甘い球を幸運にも打ち損ね――しかしライト前に落ちるポテンヒット。
シーズンではセーブ王になったこともある守護神が、泣きそうな顔でスコアボードを見ている。
タイム。投手コーチが駆け寄る。けれど、ここで交代されるようならクローザーではない。
無死一三塁。外野フライで同点、サヨナラ勝ちのランナーも出た。相手チームは勢いづく。
『だいじょうぶです! ど真ん中行ってください!』
関係者応援席から、茄子が大声をかける。
が、こんな状況でど真ん中など投げられるわけがない。
サイン交換、捕手はアウトローに構え――ヤマサキ投手が失投、ど真ん中に球が浮いてしまう。
鋭いスイングが一塁線を襲い――しかし一直、一塁ランナー戻りきれずダブルプレー。
球場に安堵と失望のため息が行き交う。二死三塁。スターの球団のベンチから選手が身を乗り出す。
『日本一まであと一つですよ! きっと勝てます、信じてください!』
相手の球団は代打の切り札を出してきた。
ヤマサキ投手が低めの直球で入る――しかしリードを読まれたのか、バットが一閃。
乾いた打球音が夜の浜風を切り裂き、打球はカクテル光線に溶ける。サヨナラか?
沸騰する相手チームの外野席に向かって放物線が延びる――しかしポールの根元、わずかに切れてファウル。
茄子が立ち上がる。
『次、次、行けますよ!』
セットポジションから投げ込まれた次の一球は、低いライナーでヤマサキ投手を強襲。
しかし彼の差し出したグラブに当たって弾かれ、白球は二塁手の正面に転々とする。
二塁手が捕球し一塁へ送球、アウト。セカンドゴロでゲームセット。
ヤマサキ投手は胴上げ投手となった。
ビールかけの間、インタビューに行った茄子は、まるで勝利の女神のように崇められていた。
『いやいや、私の力じゃありませんって、皆さんの努力のおかげじゃないですか』
茄子は笑った。選手も笑った。
茄子の笑いは、選手がビール酔いを深めるに連れて、苦くなった。
『すみません、鷹富士はそろそろ……』
俺はガタイのいい選手たちの渦に割り行って、溺れそうになりながら茄子を連れ戻した。
選手たちはよほど勝利の美酒に興奮していたのだろう、
俺と茄子が輪から離れる頃、俺たちは選手たちに負けないぐらいビールまみれになっていた。
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