塩見周子「大人」
1- 20
11: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/08/20(月) 23:28:21.79 ID:KSXDVagw0
あの日以降、あいつが家に来ることも増えた。料理だって何度も振る舞った。周子がベッド、俺がソファで別れて寝ることが、月に三度はある。

正直、周子がここに来る度、心がすり減る。無防備な姿を晒し、男を勘違いさせるような言葉を吐く周子に対し、理性を保ち続けている自分を褒めたい。

「おっと」

味噌汁が沸騰しかけるよりも先に火を止めた。野菜炒めを大皿に盛り直す。そういえば、あの日周子に振る舞った料理も、野菜炒めと味噌汁、そして白米だったな。

……初めて会ったときのこと、そしてこれまでに部屋に上がり込んできたことを思い返していく。すると、やはり今日の周子がおかしいことに気がついた。傘も差さず雨に濡れ、財布もスマホも持たずに、体一つでここまで来たことなんて、これまで一度もない。

何か事情があるのだろうか。しかし、その事情を聞き出すことは、きっと俺にはできないだろう。玄関先の周子は、絵の具を全色ぐちゃぐちゃに混ぜた色水のようによどんでいた。濁っていて、灰色の髪の毛も真っ黒に錯覚するほどで。

何があったのだろうか知りたかった。でも、知ったところで、俺にできることが何かあるのだろうか。プロデューサーだからといって、俺が周子の全てに力添えできるわけではない。むしろ、嫌になるほど、できないことの方が多い

風呂場の扉が開く音がした。水音が遠く響いた。シャワーヘッドから垂れたのであろう水滴の奏でたものだろう。

ちょうどいい、と野菜炒めの載った大皿をテーブルまで運ぶ。味噌汁と白米をよそって、それも一緒にテーブルへ持って行く。

何ができるかは分からない、が、周子の腹を満たすことはできる。美味い飯を、周子に腹一杯食わせてやるくらいならお安いご用だ。

何があったのか、それは周子が言いたいときに言ってもらえれば良い。無理して訊いて、余計に傷つけるなんて真似だけはしたくないしな。

時計は、午後11時半過ぎを指している。この時間の食事は不摂生だろう。トレーナーさんに、ダンスレッスンを増やして貰うように言わないとな。

そう思っていると、足音が数秒続いて、止まって、ドアが開く。

「……上がったよ」

「おう、食え」

周子を纏っていた暗い雰囲気は、少し薄くなっているように感じられた。胸をなで下ろした。そして、安心すると共に、再び気を引き締めた。

湯上がりの周子は艶めかしい。乾ききってない髪も、水分を含んだ頬も、熱の籠もった肌も、全てが扇情的だ。そんな姿を、邪な目で見てしまわないように務める。なぁに、いつものことだ。何度も見ただろう。

周子が椅子に腰掛けて、箸を手に取る。いつものように、その対面に座ろうとしたところで、麦茶を持ってき忘れていたことに気がついた。座りかけていた足を伸ばし、向きを変え、冷蔵庫に向かう。

背後でシャキ、シャキと、キャベツを噛む音がした。




<<前のレス[*]次のレス[#]>>
35Res/27.19 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice