16:名無しNIPPER[saga]
2018/12/01(土) 14:35:29.78 ID:3QcdtyFE0
人間は、本当に恐怖を感じると声も出ないらしい。少なくとも今の俺がそうだ。
彼女の顔を見るのが心底恐ろしい。視界の端に、子供の遊び散らかした画用紙みたいにグチャグチャになっている段ボール箱が見える。どうやったらああなるんだ。あの、堅いはずだった段ボール箱が。
俺はどうなるんだ。一体何をされるんだ。
脳裏にちらつく想像――あるいは、あまりの恐怖にちらついた幻想はあまりに恐ろしく、グロテスクだった。
「ふふ、そんなに怖がらなくてもいいんですよぉ」
彼女はそんなことを言いながら、ベッドをきしませて俺の体にのしかかる。いわゆる、マウントを取られた状態だ。思わず喉が鳴る。
「うふ……」
目と目が合うと、満足げに彼女は目を細めた。
嬉しそうに目を細めたまゆの、その細く小さい手がゆっくりと顔の方に近づけられていく。無意識のうちに、昨日の夢がフラッシュバックする。夢では、その指が首にかかったんだっけ。
逃げる? 手足の拘束をこの状況で一瞬のうちに抜けるのは絶対に無理だ。それなら助けを……助け? 段ボールをボロボロにするほどの力を持った奴にマウントを取られているのに?
もうこうなってしまったら、俺の命運は彼女にかかっているんだろう。
もう、どうにでもしてくれ。
麻痺しきってしまった思考の中で、投げやりな気持ちだけがはっきりと言葉になっているように感じられた。
そんなこちらの気持ちを楽しむように、彼女はゆっくり、ゆっくりと腕を伸ばしてくる。子供のころ、大嫌いだった注射の、注射器が間接の静脈に近づいてくるのを眺めているようなそんな気持ち。いやだ、どうしようもなくいやなのだが、もうどうすることもできない。
そして夢の通り、彼女の手は俺の首に――――
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