7:名無しNIPPER[saga]
2019/02/02(土) 16:08:03.70 ID:n48ufXgR0
「す、すいません! 俺こっちに行きますね!」
完全に虚をつかれた俺は慌ててソファを立ち、テーブルの向こう側へと座ろうとする。が、しかし、その目論見は彼女の手によって遮られた。
「構わないわ。Pさんも一緒に座りましょう。それとも……私の隣は、嫌?」
その目線は、その言い方は、その声色は、狡いだろう。
儚さすらをも伴ったその姿に、俺はつい、絆されてしまった。
「……失礼します」
元いた場所へと再び腰を下ろす。彼女と俺の体が、否が応でも触れ合う。
タートルネックのセーターとタイトなチノパンに包まれた、細く華奢でスレンダーなその身体は、つい先ほどまで屋外にいたとは思えないほど暖かく、布越しにも関わらず、女性特有のその柔らかさは鋭敏に伝わってくる。
歩いたことにより少し汗ばんだのか、衣服から漂う洗濯洗剤のフレグランスに、ほんの少しの動物性の匂いが混じり、その分子が俺の鼻腔粘膜に結合する。
視覚、触覚、嗅覚を以ってして、目の前の麗しき女性は、俺の頭の中に鮮烈な存在感を刻み込んでいた。
「Pさん」
テーブルの上のマグカップを眺めたままの彼女が発する、普段とは違う、少し甘えたような、かつ少し物怖じしているような声が、俺の鼓膜を揺らす。
「私、貴方に本当に感謝しているの。今まで持っていなかったいろんなもの、見ていなかったいろんな景色、覚えたことのなかったいろんな感情。
全て、貴方がくれたわ。本当に、本当にありがとう。でもね……」
俺の肩に感じていた圧力が、一層強まる。腿の上に、彼女のすらりと伸びた手指が載せられて、心臓が思わず跳ねてしまう。
「人間って、本当に欲張りなものね。一つ手に入れたら、もう一つ。あれも欲しいし、これも欲しい。
新たな仕事を手に入れて、新たな仲間を手に入れた私は、次はあなたが欲しいと、そう、思ってしまったの」
少し涙ぐんだような潤んだ瞳が、俺を捉える。その頬は上気しており、まるで熱に浮かされたかのようであった。
「それとも……Pさんは私じゃ、嫌?」
その言い方は、狡いだろう。
俺の中で、何かが切れた音がした。
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