8: ◆W56PhqhW.M
2019/02/20(水) 01:01:16.09 ID:cQcjrJXB0
仲間の誕生日は全員で祝う、これは765プロの伝統である。要するに、仲間の誕生日は決して他人事ではないのだ。
それは受験を控えた彼女とて例外ではない。受験勉強と仕事の合間に、私のためにプレゼントを買いに行っていたのだとすると、何だか申し訳ない気分になってくる。
9: ◆W56PhqhW.M
2019/02/20(水) 01:01:54.91 ID:cQcjrJXB0
「はぁ……」
彼女は依然として眉間に皺を浮かべたままだ。都内の公立高校の入試は二度あり、彼女は一度目の試験を逃している。彼女の志望校は都内でも有数の公立高校であり、例年倍率は高い。志望を下げるという選択もあったが、彼女は意志を変えない決断をした。その決意の裏に、どれほど壮絶な葛藤や苦悩があったのか私にはわからない。しかし、彼女が答えにたどり着いたことが容易ではないことは私にもなんとなく理解できた。
10: ◆W56PhqhW.M
2019/02/20(水) 01:02:48.34 ID:cQcjrJXB0
「あのっ」
気づいた時には声に出ていた。
「どうしたの、星梨花ちゃん?」
11: ◆W56PhqhW.M
2019/02/20(水) 01:04:02.49 ID:cQcjrJXB0
困った。彼女の気遣いは嬉しいが、口先を衝いて出た言葉であるが故に、何を尋ねるべきなのか分からない。私が思いあぐねて黙っていると、彼女の方から催促してきた。
「別に何でも大丈夫だよ。私、これでも星梨花ちゃんよりお姉さんなんだから、遠慮せずに言ってごらん?」
彼女の言葉により私の思考はさらに混沌を極めた。
12: ◆W56PhqhW.M
2019/02/20(水) 01:05:11.04 ID:cQcjrJXB0
「どうしてそんなに苦しい思いをしてまで、勉強するんですか? 確かに勉強は大事ですけど、そこまでする必要があるのかなって……」
ここまで言って私は慌てて口を塞いだ。これでは彼女の努力を否定しているようなものだ。
13: ◆W56PhqhW.M
2019/02/20(水) 01:06:15.74 ID:cQcjrJXB0
「……ごめんなさい」
私は顔を伏せた。私は彼女の顔を見るのが怖くて、目線を戻すことができなかった。
やってしまった。もっと考えて話すべきだった。
14: ◆W56PhqhW.M
2019/02/20(水) 01:06:46.28 ID:cQcjrJXB0
「夢があるんだ」
その言葉は、強くはっきりと鮮明に発せられた。声の主を見遣ると、その瞳は先程とは別人のように輝いていた。
「私ね、研究者になりたいの。まだ誰も見たことがない景色を見てみたくて。だから私はやめない。諦めないよ、絶対に」
15: ◆W56PhqhW.M
2019/02/20(水) 01:07:39.12 ID:cQcjrJXB0
この時、彼女がどこか遠くに行ってしまう錯覚に陥った。二歳年上の同期は、私の思っている以上にお姉さんだった。私などでは到底及びそうにないと、そう感じた。
「も、もちろん、アイドルも続けるよ! 星梨花ちゃんたちとトップアイドルになるのも、私の夢だから!」
何も言えない私を気遣ってか、彼女は慌ててフォローを入れる。
16: ◆W56PhqhW.M
2019/02/20(水) 01:08:22.79 ID:cQcjrJXB0
「百合子さんは、大人ですね。大きな夢があって、それに向かって頑張れる。……すごいです」
それに比べて私は、とは言いかけたものの、寸前のところで思いとどまった。これ以上、彼女を困らせるようなことをしたくない。
17: ◆W56PhqhW.M
2019/02/20(水) 01:08:58.48 ID:cQcjrJXB0
「ありがとう、でもこれって全部、星梨花ちゃんたちのおかげなんだ」
「えっ?」
思いがけず自分の名前が挙がって素っ頓狂な声が漏れた。一体どういうことだろうか。
18: ◆W56PhqhW.M
2019/02/20(水) 01:09:57.08 ID:cQcjrJXB0
「私ね、アイドルになる前は全然大したことない地味な子で、ずっと周りに流されながら生きてきたんだ」
今も地味で大したことはないけどね、と彼女は付け加えた。
「でもね、みんなとアイドルとして頑張ってるうちに幸せだなあ、充実してるなあって思えるようになったの。こんなの生まれて初めてだった。この時くらいかな、私が自分に自信を持てるようになったのは」
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