【モバマス】 和久井留美「富士そばには人生がある」
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16:1[sage saga]
2019/02/22(金) 12:38:55.56 ID:+K0KOsmIO

「あ……」


 缶コーヒーを飲み終え路地をさまよっていると、路地を横切る野良猫を発見する。



「猫ちゃ〜ん……!」



 ええ、充分酔っていることは自覚しているわ。
 猫好きの癖に猫アレルギー……。せめて近くでその姿を堪能したくて、私は猫の背中を追っていく。
 こうやって、私は名も知らない誰かに憧れて、そうしてそのおぼろげな背中をずっと追いかけている――


「ここは……?」


 野良猫を追いかけていくと、いつの間にか開けた場所に出る。


「花園神社ね……」


 ビル街の隙間にひっそりと鎮座する花園神社。喧騒に支配されている新宿でも、この場所は神秘的で荘厳な雰囲気を纏っている。
 雲の隙間から差す月明かり、鮮やかな朱色の本殿。いつの間にか雪は止んでいる……。


「……」


 この場所には縁結びの稲荷神社や芸能の神を祀った芸能浅間神社もあるようだ。
 野良猫は見失ったものの、これも何かの縁と思って参拝する。
 初詣にしては遅すぎるけれど、こうやってちゃんとお参りしたのはいつぶりだろう……。
 私を支えてくれる全ての人に幸せがあるように、その想いを込めて参拝した。


(わくわくさん、今度は君の番だ!)


 うるさいわね――あの男の顔がチラついて思わず笑ってしまう。
 寒空の下、誰もいない神社で参拝する女が一人……。ほどほどにして、早々に神社を後にする。


(私、一体何をやっているのかしら――)


 酔って、やけになって、そうしてあのホームラン男の言葉に流されて、私はアイドルになっていた。二十代は後半のこの私が今やアイドル――誰が想像できただろうか。

 家族一同、もう呆れたのか何も言ってこない。孫の顔がどうとか、結婚はどうとか、そんなことを言われた記憶も今や昔――
 この私がアイドル……。しばらくは詐欺か何かと疑っていたが、初対面こそ軟派な雰囲気を漂わせていた浅黒肌・彫りが深いホームラン男は堅実で、しかし斬新で、そんなプロデューサーにプロデュースされた私は一人のアイドルとして今ここにいる。

 あの男は私を芸能界に引きずり込んで、そしてあっという間にアイドルにしてしまった。それどころか今やアイドル業だけではなく、俳優として、はたまたバラエティタレントとして育て上げた。



 捨てる神あればなんとやら――嬉しさの反面、その裏であの言葉が染みついて離れない。






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