【モバマス】 和久井留美「富士そばには人生がある」
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8:1[sage saga]
2019/02/22(金) 12:10:14.11 ID:+K0KOsmIO

「さてと……」


 今の私……。自然に紡がれたはずの言葉が、自身の心境の変化を慎ましく伝えていた。

 丈の長いPコートにマフラー、革の手袋にブーツ――いつ雪が降っても大丈夫なよう万全の準備で臨んだはずだったが、微かに吹き抜けた冷たい風が衣服の隙間を通り抜け押し寄せたとき、私は噛ませ犬のようにあっさりと白旗を上げる。


(早く帰りましょう……)


 ビル街に舞い散る雪に感傷的になるような年頃でもないだろう……。そう言い聞かせ、最寄り駅へ向かった。
 今日の仕事は全てやりきった。そして明日は何もない、いわゆるオフだ。早く帰って熱いシャワーで疲れを癒したい。


「次は――です。お出口は――」


 今となっては芸能界に身を置く芸能人の端くれとなった私であるが、移動手段は電車を利用することが多い。芸能人といえば華々しい世界にいて、そして移動手段もタクシーだけを使う――そんなイメージを持つ人間は多いと思う。しかし当然そうではない人もいるし、私に限っては想像よりも意外と現実的な世界だと思っている。私に限っては……。

 もちろん周囲には華々しいオーラを纏った人間がいて、そういう人で溢れて、極彩色のように爛爛としてかえってくどくどしいように感じてしまう、それほどの夢幻な世界であることも事実。


「次は――です」


 そうそう……。前の仕事の影響か分からないけど、経費だとかそういうつまらない雑念がついつい頭を過って、こうして安い移動手段に走ってしまう。場合によってはもちろんタクシーも利用するけれど。


(一円に笑う者は一円に泣く――ああ、そんな言葉もあったかしら)


こんな性格をしているから、「私に限っては芸能界も意外と現実的だ」と思えてしまうのだろう。決して自分をお高く見積もっているわけではない――これはつまらない自分に対しての皮肉である。



私には「華々しい夢」がない。





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