【モバマス】 和久井留美「富士そばには人生がある」
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9:1[sage saga]
2019/02/22(金) 12:14:44.49 ID:+K0KOsmIO

「お待たせしました。次は新宿、新宿です。お出口は――」


 人混みに流される――そうだ、この時間は帰宅ラッシュの時間帯だ。
 準・満員といった様相の電車内。車内中ほどに立って、そしてつり革を握っていた私は、世界有数のターミナル駅で乗り換える乗客の群れに流される。


(智に働けば角が立つ。情に掉させば流される。意地を通せば窮屈だ……)


 昔の文豪はよく言ったものだ。そう、とにかくこの世は住みにくい。


(意地を通せば窮屈だ……)


 愚痴りたくもなるけれど、この場合意地を通せば角が立つ……。
 だから私は流される――電車中ほどから。
 このような乗車率の高い電車で流れに逆らおうものなら、私のような華奢な人間は押しつぶされてしまうだろう。
 そう思って、一旦降車してから再び乗車することに……。


「扉、しまりまぁーす。無理なご乗車はおやめ下さーい。発車しまぁーす」


 乗車することに……しようと思ったのだが、不覚だった。停車位置がちょうど駅の階段の前であった。
 下りてすぐ、扉の横に立ってやり過ごそうと思った。しかし狭い通路は人でごった返し、一方通行で進まざるを得ない。例えるならそれは初詣の参拝列に同じ。

 そうしているうちに電車は発車し、そのまま流されて流されて――気付けばホームにぽつんと取り残された。


「情に掉させば流される……か」


 世界一忙しいと言われる新宿駅のホームに立ち竦む。


「……」


 この東京、そしてこの路線では僅か数分で次の電車が来る。だからこのまま待っていればまたすぐに帰宅の途に就けるだろう……。


(いいじゃない――だったら、このままどこまでも流されてやるわ)


 人混みに流され、思考まで流されて……。
 私の足は自然と階段へ向かう。無意識というわけではないが、人の群れに酔って、それまでの様々な思念が渦巻いて、その結果半ばやけくそのような状態となっている。
 様々な思念……。そう、皮肉と哀愁と空虚と、そして空回りする憧れと。

 週末の駅、行き交う人々は皆足早に通り過ぎていく……。仕事から解放され宴会へ向かうサラリーマン、若さのまま夜を往く学生グループ、仲睦まじく体を寄せ合う恋人たち、誰か大切な人を待っている一人一人……。それぞれの物語が、私の虚無感という風船に次々と息を吹き込んでいく。


(きっと、空腹のせいだわ――)


 真冬、空腹を感じると更に体温は下がる。そしてその現象が精神を蝕む。
 だから、まずは空腹を満たすことにしよう……。
 そう思って私は改札を抜け、歌舞伎町方面の出口へ向かった――






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