9: ◆ZKbJze6bBryN[saga]
2019/03/03(日) 18:19:38.70 ID:nGbAwA8f0
一花「ただいまー」
マンションの中は真っ暗だけど、一応声をかける。
一花「でかけてるんだ、フータロー君」
玄関の電気をつけると、彼の靴がないのでわかる。
一花「ご飯どうしよっかなー……今晩、帰ってくるのかなー帰ってくるなら手料理作ってあげたいけど」
一花「多分、帰って来ないよねー」
一花「……はぁ」
最後のチャンス。確かに役には自信がある。演技だって、天性のセンス+努力で誰にも負けない。ライバル事務所の乳臭いガキ共に負けるはずがない。
一花「私は大女優、私は大女優、中野一花だぞっ」
洗面台で化粧を落として、鏡を見た。小じわも増えた。
一花「私の仕事は、赤点ギリギリのイケメン五つ子達への家庭教師。女子高生役とか久しぶりだけど……まだまだいけるよね?」
一花「原作も読んだけど、花婿争いで修羅場なんだよね。真っ直ぐで行動的な次男に対して、奥ゆかしくも芯は熱い三男の、主人公を巡る河原での殴り合いは熱かったなー」
一花「四男は最初から最後まで主人公の味方、心優しくて気遣いできるし、こういう男の子っていまどきいないよねー絶対もてると思う!」
一花「五男は食いしん坊キャラで、ネットで相撲部屋に行けって馬鹿にされてるけど、ファンからは愛されているよね」
一花「長男はこっすい手使うからなー、もっと男らしくドーンと行くべき……だったと思う」
一花「……はぁ。フータロー君。なんでこんな時にいないのかなー」
一花「こういう日は、隣にいてくれるだけでいいのに」
一花「もし私が、女優じゃなくなったら。私が、今までのように、あなたに与えられなくなったら」
一花「……いなくなったりしないよね?」
鏡の前に立っている女は、まるで死んだように蒼ざめていた。
たまらない不安と、その先に待つ絶望も、彼女は一人で受けないといけない。
39Res/27.67 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20