112:名無しNIPPER[saga sage]
2019/04/15(月) 10:24:59.76 ID:SWPDcXJr0
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「ブレンドお待ちどお様」
エプロン姿のカチューシャの彼が、湯気の立ち上るマグカップを持って、俺のテーブルへとやってくる。
「真夏にホットコーヒーなんて、大人だねえ」
皮肉や揶揄ではなく、純粋に感心しているらしく、彼はそんなことを言った。
人の良さそうな顔を見上げながら、俺は心の中で謝罪しつつ、単刀直入に訊く。
「彼女の名前、永宮幸だったよね」
「っ……!?」
「住んでいるところ、知ってたら教えてほしい」
永宮の名前を出すと、さすがに険しい顔つきになった。カチューシャの彼はわざとらしくそっぽを向いて――慣れていないのだろう――たどたどしく突っぱねた。
「ただでは教えられないな……!」
対価を払えば教えてくれるあたり、彼のお人好しさが透けて見える。
「何が知りたい?」
間髪入れずにそう切り返すと、彼は呆れたように振り向き、じれったそうな表情で詰め寄ってきた。
「おまえさあ、透子さんが好きなのか? 大事にしてるんだろうな……? 透子さんは、俺たちの大事な友達なんだよ」
「…………」
誰も彼もが友達思いな彼らに、俺は言いようのない後ろめたさを感じる。
その上、透子を大事にできているかといえば、目下かなり怪しいところだ。
俺が黙って俯いていると、カチューシャの彼は根負けしたように言った。
「さっちゃんの住んでる場所、教えるよ」
「……俺、君の聞きたいことに、何も答えていないけど」
「俺、なんかうまく言えないけど、俺に……答えなくていいよ」
わかるだろ、とでも言いたげな視線を寄越すカチューシャの彼。
彼は俺に、透子が好きなのか、大事にしているのか、と問うた。
その答えを伝えるべき相手は――確かに、そうだ、彼ではない。
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