12:名無しNIPPER[sage saga]
2019/04/03(水) 23:10:29.16 ID:DvK9a+dU0
†
その《声》のことは、母さんにも、もちろん父さんにも、話したことはない。
あれは、忘れもしない、あの夏祭りの日。
家へと続く道を悄然と歩いていた俺の元に、それは通り雨のようにふらりとやってきた。
《――またな――》
その時は、何かの空耳かと思い、気にも留めなかった。
しかし、その街を出ていくことになって、みんなに別れを告げたとき。
『……またな』
無理に笑って再会を約束する自分の声に、俺は強い既知感を覚えた。
以来、俺はその《声》を、それなりの頻度で耳にするようになった。
大半は意味のないノイズだったり、おぼろげで何を言っているのかわからなかったりしたけれど、かろうじて聞き取れた《声》は、ほとんどの場合、少しあとになって俺が言うことになる言葉だった。
母さんのあとについていくのに精一杯で、自分が今どこにいて、次にどこへ向かうかもわからなかった幼い俺にとって、その《声》は闇夜の灯台のように感じられた。
今はまだ不完全な俺だけれど、その《声》の示す場所へ向かうことで、いつか完全な形を手に入れることができるかもしれない……。
いつしか、俺はその《声》を待ち望むようになった。
《声》について、もっと多くのことを知りたいと思った。
少しでも《声》の正体に近づければと思うようになった。
そしてついには、《声》それ自体が、現実の、現在の俺の欠落を補ってくれる、何かの部品のようなものなのではないか、と考えるようになった。
胸にわだかまるこの気持ちを、いつか埋めてくれる小片。
ゆえに。
暗い海の底か、あるいは、はるか遠くにある大地にでも落ちていくような感覚の中で。
藁に縋るような、淡く、それでいて切実な期待を込めて。
俺はその《声》に、《未来の欠片》という名をつけた。
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