138:名無しNIPPER[saga sage]
2019/04/18(木) 11:27:40.16 ID:OU1b3DXA0
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翌朝、俺たちはジョナサンの鳴き声で目を覚まし、慌ただしく学校から抜け出した。
家に帰ってテントに入り、俺は寝袋を敷くのも面倒でそのままぐったりと横になる。
そうして仮眠を取っていると、母さんがやってきた。
「駆、おはよう。昨日の電話――また外泊なの?」
怪訝そうな声が聞こえて、入り口の幕が開く。射し込む光が眩しくて、俺は片目だけを開けて応じた。
「……おはよう」
寝起きの掠れ声でそう言のうがやっとの俺に、母さんはうきうきと弾んだ声で訊く。
「深水さんのご両親は来てもらえそう?」
「たぶん……」
「じゃあ、早めに来ていただいて、軽いお食事でもしましょう」
「……ああ」
乗り気な母さんのテンションに当てられて、強制的に目が覚める。
のろのろと起き上がり、テントの外に出ると、《俺》たちが難しい顔で待ち構えていた。
『透子にちゃんと話しておくんだろう?』
「あぁ……」
曖昧な返事をすると、《俺》は批難めいた口調で言う。
『まだ決められないのか?』
母さんの提案は魅力的だ。俺のやりたいことにも合致する。
しかし、それを選べば、俺はもう透子とは一緒にいられない。
だが、もし仮に透子と一緒にいることを選んだとして、その先は――?
『透子がいたからって、あれからは逃げられない』
「……ああ、わかってる」
まとまらない思考を振り払うように、強く言い返す。
透子と一晩一緒にいて、今までにない安らぎを得られたのは本当だ。
透子のことも、もっと知りたいと、前よりずっと強く惹かれる。
でも、そうして近づけば近づくほど、耐えがたい恐怖が俺を襲う。
これまで何度も何度も思い知らされてきたこと。
一つの街でずっと暮らしてきた人間と、街から街へ移り住んできた人間は、あまりにもかけ離れている。
両者の間には、埋められない深い溝がある。
近づこうとすれば、どこかで必ず底のない淵へ落ちることになる。
今この瞬間も、それは真夏の影のように、俺の足元で黒々とした口を開けている。
透子とも、俺自身とも、真剣に向き合おうとするからこそ、わかり過ぎるほどにわかってしまう。
《唐突な当たり前の孤独》からは、逃れられない。
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